Bookso beautiful yet terrific.

 木漏れ日が美しい学園の裏庭で、アズールは地面を背に上を向いていた。そのアズールの右手には箒がある。そんなアズールのお腹の上に跨るように彼女がいた。

「ごめんなさい!!!大丈夫ですか!?」

「ああ、いえ。僕の方こそ、」

言葉が途切れた。アズールの上に馬乗りしている可憐な少女に対し、アズールは息を呑んだ。木漏れ日が彼女に降り注ぐせいで、彼女はそこにいるだけで神々しい。艶やかな長く美しい髪はまるで絹糸のようだ。アズールを気遣う長い睫毛に縁取られた大きな瞳に、ついついアズールは吸い寄せられていく。鈴の音色のような彼女の声を、ずっと聞きたいと思うものがある。

「す、」

アズールから発せられるか細い声に反応した彼女が目を瞬く。それから瞬時にアズールの口元に小さくて色白の自らの耳を寄せた。

「え?なんですの?」

ずいと彼女が近づいたせいでアズールの鼻に彼女のシャンプーの匂いを掠めていく。これには損得勘定で動くアズールも何振り構わなくなるくらい、本当に無意識に気持ちを吐き出した。

「好きです」

「え?」

「あなたのことが大好きです」

「わたくしを?アズール先輩が?」

「そうです。僕は、あなたのことを愛しています」

「打ち所が少々心配なところはありますが。とりあえず、ご無事のようですわね」

彼女がすっとアズールの上から退いた。そのまま彼女は回れ右してアズールに背を向ける。一方アズールは彼女のあまりにもあっさりとした態度に驚き、勢いよく身体を起こしては彼女の前に立ち塞がった。

「全く無事ではありません!!!僕はあなたに心を奪われてしまったんですよ!?盗んだ僕の心の責任をあなたは果たすべきでは!?」

「まるでカリオストロのお姫様に言う警部みたいなことを仰いますのね。わたくしには身に覚えのないことですわ」

にっこりと大層綺麗な微笑みを顔に貼りつけながら彼女はアズールに返した。残念ながら、アズールはそれで引き下がる男ではない。

「そもそも!あなたが僕の胸の中に飛び込んで来たんです。男の心を弄ぶだなんて。あなたという人は」

「言いがかりですわ!薬草を詰んでいたわたくしに突っ込んで来たのはアズール先輩の方ですのよ」

 そうなのだ。そもそも、彼女がアズールのお腹に跨るはめになったのは、彼女が裏庭で魔法薬学で使う薬草を詰んでいたところに、同じく裏庭で苦手な飛行術を誰にも見つからないようこっそりと練習していたアズールがあらぬ方向へ飛行したせいで離れた場所にいたはずの彼女にぶつかっていったというわけである。つまり、加害者はアズールで被害者は彼女の方だった。
 彼女からの指摘にアズールは冷静に考える。自分が加害者になった以上きちんと責任を取らなければ、と。

「分かりました。あなたを傷ものにした責任をこの僕が取らせていただきます。海の魔女に誓って」

「擦り傷一つないので責任取っていただかなくても問題ないですわ」

「あなたは元の世界では、それはそれは大事に育てられた由緒ある家柄のお嬢様であることを存じています。ならば、あなたの御身をお守りする意味でも僕と結婚するのは名案かと思いますよ」

「全く思いませんわね」

彼女の眉間に皺が寄っていく。それは、照れ隠しだろうか。彼女だってアズールにぶつかられてもアズールの身を案じてくれたのだから、脈有りだろう。と、アズールは勝手に思っている。
 ふと、アズールの背後から彼女を呼ぶ声が2人分聞こえてきた。

「おーい監督生!大丈夫?変なのに付き纏われてない?」

「おまえが戻って来ないからクルーウェル先生が心配してたぞ」

アズールが振り向くと、彼女のお友達であるエースとデュースが走り寄ってくるところだった。お友達の姿にパァッと表情を明るくさせた彼女は即座にアズールを押し退けてエースとデュースの元へ行く。

「迎えにいらしたのね!どうもありがとう」

朗らかに微笑む彼女の姿と、彼女の後ろで物凄い形相で自分達を睨むアズールの存在に、エースとデュースはついお互いの顔を見合わせる。そんなことはお構いなしの彼女は両手を伸ばしてお友達のそれぞれの手を取った。

「さあ!戻りましょう。いつもありがとう、わたくしの騎士」

出会ってから言われなれている彼女からの呼び名にエースとデュースは照れたように空いた方の手で頬をかいた。
 しかし、話はこれで終わらなかった。朗らかに微笑む彼女と照れているお友達に対し、アズールはそれはそれは大きな声で発狂するのだった。

「わたくしの騎士ってなんですか!?僕だって呼ばれたことないのに!!!あ、ちょっと!!!聞いてますか!?」

アズールの発狂も虚しく、彼女はアズールに振り向くことなくエースとデュースに先を進むよう促した。

「そうですわ!詰んだ薬草はあちらのバスケットの中に」

「あー、あれか!じゃあ、バスケット回収して行こうぜ」

「お、おい。アーシェングロット先輩はいいのか?」

何事もなかったかのように話す彼女と、嫌な予感を察して見ないふりを決めるエースと、気遣わしい目をちらりとアズールに向けるデュース。やがて、3人の姿は見えなくなった。
 その場に1人残されたアズールはわなわなと肩を震わせる。それから、眼鏡の奥の瞳をぎらりと鈍く光らせてから口を開いたのだった。

「何がわたくしの騎士だ。こうなったらタコ壺に引きずり込んでやる!!!それで絶対に、わたくしの人魚って言わせてやるからな!!!!!」

 アズールの叫び声は裏山に木霊して、遠ざかる3人の耳にも入っているとかいないとか。

2023.05.20