Bookso beautiful yet terrific.

 朝、メインストリートは今日も騒ついていた。学園へ登校する生徒達の視線の先には1人の女子生徒がいる。

「監督生だ!ご、ごきげんよう!」

「え?監督生!?ごきげんよう!!!」

全くもって知らない生徒に挨拶されても、彼女は大層綺麗な微笑みで軽やかに手を振って返してみせる。

「ごきげんよう」

鈴の鳴るような声音でそう挨拶を返してもらえれば生徒達は天にも昇る気持ちになる。他にも、気恥ずかしさ等で挨拶まではできなくとも沿道から彼女に手を振る野郎どもが大勢いる。
 その光景を彼女の両隣を歩いていたエースとデュースが見ては複雑な表情を浮かべる。まるで何処ぞの国のロイヤルファミリーですか?とツッコミを入れたいほどの光景だ。ただでさえ異世界からやって来た魔力のない女の子という存在だけでも目立つのに、彼女の見目と言葉使いと所作のせいで余計に注目を集めていく。

「僕は沿道からこれだけの人間に手を振られたことは茨の谷でしかないぞ。この学園ではセベクにしかされたことがないな」

「奇遇だな。トカゲ野郎。俺も自国とサバナクローの奴等しかない」

 遠くから眺めるこの世界の王子達はそれはそれは微妙な表情を浮かべている。

「おぬし達と彼女の違いは愛想の問題だと思うがのう」

リリアがあからさまに溜息を吐いて意見した時、渦中の彼女がこちらに顔を向けた。

「レオナ先輩。ツノ太郎。ごきげんよう」

レオナとマレウスと目が合ったらしく彼女がにこやかに笑いながらひらりと手を振ってみせた。彼女に即座に反応したレオナとマレウスは揃って片手を上げて返し、ごきげんようと満面の笑みを浮かべた。当然、これにはリリアも肩を竦めて苦笑いするしかない。

「監督生さん。おはようございます」

 また1人、彼女の元へやって来た人物に彼女の前を歩いていたグリムが顔を顰める。そんなこと露知らず。彼女といえば他の生徒に返すように挨拶を返した。

「ごきげんよう。アズール先輩」

ぽっとアズールの頬が赤く染まる。アズールは忙しなく眼鏡のフレームを指でかちゃかちゃ直しながら彼女のお友達を押し退けて彼女の隣に並んだ。

「そろそろ小テストの時期ですね。監督生さんは、対策はいかがです?」

「そうですわねえ。日頃から苦手な箇所はそのままにしないよう気をつけておりますわ」

「流石です、監督生さん。では、不安はないと?」

「不安がないと言えば嘘になりますわね」

「きちんと相談できる相手はいらっしゃいますか?」

「そうですわねえ。学園長くらいかしら。学園長には、何から何までお世話になって申し訳ないけれど。彼の親切心がとても心地良くてついつい甘えてしまうの」

極自然と世間話しながら歩くアズールと彼女の姿に、その場に居合わせた面々が思った。うちってお嬢様学校だったっけ?と。
 つらつらと世間話を続けていたアズールが、ふと、表情を変える。顔に貼りつけた笑顔をそのままに、眼鏡の奥の瞳をギラリと輝かせてから口を開いた。

「あなたが近々受けるだろう小テストですが。例年通りなら僕の得意な範囲です。よろしければ僕と一緒に勉強会はいかがですか?」

「勉強会?それなら、わたくしには学園長が家庭教師をしてくださるので。お気持ちだけ受け取っておきますわ」

「学園長が家庭教師をしてくださるとは大変心強いですね。しかし、学園長たる者が1人の生徒だけを特別扱いすると周りが良く思わないでしょう。ここは一つ、数いるナイトレイブンカレッジ生の1人である僕を頼ってはくれませんか?」

「確かに、アズール先輩の仰る通りですわね。学園長にご迷惑をおかけするのは避けたいですし」

顔色変えずに考え込む彼女の横顔に、アズールが勝ち誇ったようにこっそり笑みを浮かべる。世間知らずのお嬢様ならうまく口車に乗せて部屋に連れ込んでしまえば僕の勝ちだ!!!!!と、アズールは声高々に心の中で叫んだ。
 しかし、それですんなり話が進むような彼女ではなかった。彼女は、いつのまにか自分と離れた位置を歩く親友と親分に声をかける。

「エースとデュースとグリム。これからは学園長の代わりにアズール先輩がお勉強を教えてくださるの。あなた達も、予定を空けておいてちょうだいね」

「は?」

思わず、アズールはぽかんと口を開ける。一方、エースとデュースとグリムはめんどくさそうな声を上げるが、あっさりと了承した。

「しょうがないなあ。俺も一緒に教わってやるよ」

「おまえを1人にしておけないからな。ローズハート寮長達にも言われてるし」

「オメーは放っておくとすぐ変なのに引っかかるから、仕方ねーんだゾ」

「どうもありがとう。わたくしの騎士」

2人と1匹に対し、彼女がふわりと微笑んだ。
 アズールはわなわなと肩を振るわせながら何とか口を開いた。

「か、監督生さんだけの話では、なかったのですか?」

「え?何故ですの?」

「な、何故って、」

言い淀むアズールに、彼女が小首を傾げる。それから、彼女はさも当たり前のように言ってのけたのだった。

「男性の誘いには1人で参加してはならないとわたくしの家の執事から子供の頃からずっと言われておりますの。それにアズール先輩。お互いに変な噂が立ったら困るでしょう?だから、みんなでお勉強会にいたしましょう。ね?」

アズールは、彼女に返す言葉もなかった。執事め!!!余計なことを!!!と、叫びたいがアズールはぐっと我慢するしかない。
 こうして、アズールは次なる作戦を考えるはめになったのだった。

2023.05.20