Bookso beautiful yet terrific.

 アズールは本日の錬金術の授業をとても楽しみにしていた。何故なら、この錬金術は学年関係なく選択した者が受けられる。
 アズールは前の授業が終わった瞬間、誰よりも早く実験着に着替えて実験室に向かう。すると、そこには既に何人かの1年生が揃っていた。同じく錬金術の選択を取った2年生と3年生の姿はまだない。下級生に先を越されたことを内心舌打ちしながらアズールは目的の人物を探す。ちょうどその時、お目当ての人物が実験室にやって来たところだった。

「おい!子分。あっちの席が空いてるんだゾ」

「どうもありがとう」

当然ながら彼女の側には親分を自称する魔獣がいる。そのグリムに促されながら彼女は空いている席に座った。
 ふと、グリムは大きな声を上げる。グリムの声に反応した彼女に対し、グリムは前足で彼女の髪を指差した。

「オメー。髪の毛そのままなんだゾ!」

グリムの指摘に彼女が自身の髪を触る。実技の時は邪魔にならないよう髪を結っていたのに、今日に限って忘れたことに気づいて苦笑いを浮かべてしまった。

「まあ。わたくしとしたことが。髪を結うのを忘れてきてしまいましたわ」

「ったく。オメーはちょっと抜けてるところがあるから世話が焼けるんだゾ」

「それにしても、困りましたわね。髪結の紐も教室に置いてきてしまいましたし」

ふうと小さく息を吐く彼女の姿に、アズールはチャンスだと言わんばかりにそちらへ足を向ける。
 しかし、それよりも先にグリムの方が動くのが早かった。グリムは自らの首を飾るストライプ柄のリボンをしゅるりと解く。そして、当たり前のよう彼女の座る椅子の背もたれに後ろ足で立ち、前足で彼女の髪に触れた。

「オレ様の一張羅なんだから大事に使うんだゾ」

そう言いながら、グリムは前足を器用に動かし彼女の髪を後ろで一つに纏めて自身のストライプ柄のリボンを結ぶ。数分もかからないそれに普段から慣れていることを容易に想像できた。

「ほら。できたゾ」

やれやれといった感じでグリムが背もたれから降りて彼女の隣の椅子に座ろうとする。それよりも早く彼女の両手が伸びてきてそっとグリムを抱きしめた。

「どうもありがとう。わたくしの小さな騎士」

ちゅっと軽い音を立てて彼女がグリムの頬に口付ける。当のグリムは不満そうな声を上げてはいるが満更でもなさそうな表情だった。
 アズールは一連の光景に絶句する。彼女の髪に触れるのもそうだし自身のリボンで髪を結うの異議を唱える。ほっぺにちゅうなんぞ論外だ。それに、1番文句を言いたいのは。

「だから!!!わたくしの騎士って何ですか!?僕だって呼ばれたことないのに!!!!!」

である。何処ぞの金魚ちゃんよろしく顔を真っ赤に染めてウギギギと地団駄を踏むアズールに、とやかく言う輩はいない。
 その代わり、遠巻きに彼女を見ていた1年生達は揃って自身の首からタイを解いた。

「か、監督生!!!俺のも使ってくれ!!!」

「ぼぼぼぼ僕のも!!!」

彼女はアズールの騒ぎようと自身のタイをこぞって渡そうとしてくる同級生達に首を傾げる。それから腕の中にいるグリムの頭を撫でながらにこやかに返すのだった。

「みなさんのご厚意に感謝しますわ。ですが、わたくしの髪を結うのはこの小さな騎士だけで十分ですの」

2023.05.20