Bookso beautiful yet terrific.

 むむむむむとアズールは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。あからさまに不機嫌な雰囲気を漂わせる支配人の姿にモストロ・ラウンジの従業員も色んな意味で震えている。

「監督生さんの騎士はこの僕です!!!そうですよね?」

「はい!!!支配人!!!」

「監督生さんがわたくしの人魚と呼ぶ相手はこの僕です!!!そうですよね?」

「はい!!!寮長!!!」

と、アズールは従業員もといオクタヴィネル寮生を片っ端から捕まえてそう尋問する。

「確かに。俺もあの監督生に、わたくしの騎士って呼ばれたい」

「分かる。拙者も、わたくしのルパンとか呼ばれたいですわ」

「そ、こ!!!!!無駄話をするんじゃない!!!!!罰としてラウンジの掃除当番1ヶ月です!!!!!」

こっそりと願望を口にする野郎どもに、アズールからの八つ当たりとも取れる理不尽な命令が下された。遠巻きに見ていた寮生達は顔を真っ青にさせていく。
 それを見兼ねたジェイドは荒れ狂うアズールの肩を軽く叩いた。

「少し、休憩しませんか?」

ジェイドの提案にアズールはじとりとジェイドを睨む。しかし、アズールの視線なんぞ全く気にしないジェイドは再度提案した。

「ほら。休憩しましょう」

こうして、タコの暴君はVIPルームへ1度下がったのだった。
 VIPルーム内のソファでは既にフロイドが勝手に寛いでいた。アズールは文句を言おうとしたが、自身もフロアで暴れてきたのを自覚しているので口を閉ざす。それから適当に空いているソファに腰かけて太く息を吐いた。

「陸の女性の趣味嗜好はしっかりと頭の中に叩き込んだはずなのに」

「監督生さんはアズールにちっとも振り向いてくれませんからね」

にこにこと合槌を打ちながらジェイドは紅茶が入ったティーカップをアズールが座るソファの前にあるテーブルの上に置いた。アズールはティーカップには触れずにただただ項垂れるだけ。

「まだ付き合ってないのー?それって脈無しじゃん。もう諦めちゃえば?」

「フロイド。傷口に塩を塗るのはやめてあげなさい」

 しっかりと話を聞いていたらしいフロイドを嗜めつつも、残念ながらジェイドの肩が震えている。それに怒りを覚えるも、フロイドの言うことは的外れではないのでアズールは溜息を吐くしかなかった。

「あのお嬢様。あんなにガードが固いとは思いもしませんでした」

 そうなのである。彼女はアズールの誘いに応じることなんぞ全くなかった。あったとしても、彼女の執事の教え通りに、わたくしの騎士も一緒にとにこやかに返してくるのだ。

「いっそのことタコ壺の中に引きずり込んで一生閉じ込めてしまいたい」

「えー?それじゃあ小エビちゃんかわいそう」

「おまえは僕と彼女のどちらの味方ですか?」

「小エビちゃんに決まってんじゃん。だって、俺、小エビちゃんの騎士だもん」

 フロイドの発言に、は?と固まったのはアズールだけではなくジェイドも同様だった。

「あの。僕、初耳ですけど?」

戸惑うようなジェイドの問いかけにフロイドはそうだっけ?と首を傾げる。それから何てことないように続きを述べた。

「だってさ。小エビちゃんって1人でいると変なのに付き纏われてるんだもん。自分も監督生さんの騎士にして!みたいのにしつこくされててかわいそうだったし。だから俺が、しょうがないから小エビちゃんに群がるオスをぽーいってしてあげたわけ。そうしたら小エビちゃんが、感謝いたしますわ!って笑うから。それじゃあ、俺も騎士になっていーい?て聞いたらオッケーしてくれてさあ。あれ?ちょっとジェイド、聞いてんの?」

つらつらと事の顛末を語るフロイドの姿に、ジェイドは顔に笑顔を貼りつけたまま固まっている。そのジェイドを押し退けたアズールは、身体中が怒りで燃えていた。

「あのお嬢様は!!!騎士になりたいと希望したら誰でもなれるんですか!?どうなってるんですか一体!?」

 そして。アズールは勢いそのままにモストロ・ラウンジを飛び出してオンボロ寮へ向かった。
 数時間後。戻ってきたアズールは打って変わって大層上機嫌だった。

「オンボロ寮に行って話をしようとしたら、彼女からお茶会に誘われたのでそのままお邪魔してきました。エースさんとデュースさんとグリムさんとゴースト達と一緒というのは気に入りませんが、彼女のお気に入りのレモンパイをいただきましてね。僕が、甘酸っぱくて恋の味のようにおいしいと感想を述べたら、彼女がそれはそれは嬉しそうに破顔して、またいらしてくださいねと僕を誘ったんです。これもう僕達両想いですよ!!!タコ壺にご招待してもいいレベルでは!?」

アズールの饒舌にジェイドは笑顔のまま固まり、フロイドは引いた。
 当初の目的である、わたくしの騎士問題は、舞い上がるアズールの頭の中からすっかり抜け落ちてしまい解決しなかった。残念ながら、今のアズールにそれを指摘できる人はいなかった。
 ただ、ウツボ達は思う。アズールが幸せそうだからいいか、と。

2023.05.20