Bookso beautiful yet terrific.

「僕ね。せっかく心というものを手に入れたから、もっともーっと色んなことを学びたいんだ」

 そう言ったオルトくんは、好奇心旺盛の男の子のように表情を輝かせていた。オルトくんの学ぶ意欲に、私は関心しながら頷く。

「オルトくんがやりたいこと、私も応援する。イデア先輩も、私と同じことを言わなかった?」

「うん!最初に兄さんに話した時、君と同じことを言ってた!」

その時のことを思い出しているのか、オルトくんが嬉しそうに笑う。だけどすぐに表情を引き締めた。

「そこで、君にお願いがあるんだけど」

「私にできることなら」

オルトくんのお願いとやらを私が間髪入れずに了承すると、オルトくんがよかったとふにゃりと笑う。

「僕のしてみたいことに付き合ってほしいんだ」

オルトくんの言葉に、私は数回瞬きを繰り返す。全くイメージが湧かないそれに私は思わず首を傾げた。

「例えば?」

「そうだなあ」

私の問いに、今度はオルトくんがうーんと首を傾げた。少し考えるように眉を寄せてから、困ったような表情で私を見つめてきた。

「具体的な内容を言わないとダメ、かな?正直ね、これをしてみたい!やってみたい!というイメージがまだ固まってないんだ。あ、でも。それじゃあ引き受ける君が困っちゃうよねえ」

しょんぼりと項垂れていくオルトくんの姿に、せっかく頼んでくれたしなあと思う。だから私は、目の前にいる小さな男の子に向かって頷いたのだった。

「いいよ、それでも」

「本当?」

「うん。イメージが固まって、協力してほしい時になったらまた声をかけてね」

私の出した答えに、オルトくんがぱあっと表情を明るくさせてわーい!と喜んでみせた。

「ありがとう、監督生さん!これからよろしくね!」

オルトくんがこんなに喜んでいるし、まあいいかと思いながら私も頬を緩ませる。
 それが、後に私を後悔させるとも知らずに。


 はっきり言えば、同情心から了承したと思う。小さな男の子が一生懸命何かをしようとしているのを見かけたら、手伝ってあげたいと思うのが人の性というものだ。だから、オルトくんのかわいいお願いを私は一つ返事で答えていた。
 ヒトの体温を知りたいから手を繋いでもいい?ヒトの体温を測りたいからぎゅうと抱きしめてもいい?おでこをこつんとして熱を測るの僕もやりたい!挨拶って頬にちゅってする方法もあるらしくて僕もやってみたいなあ。
 と、最初の頃に比べるとお願いの度がどんどんエスカレートしている気がする。いや、間違いなくエスカレートしてる。

「ねえ。お洋服を脱いで」

その言葉に、は?と思ったのは当然のことだった。
 ある日の放課後。オンボロ寮の私の部屋に押し入って来たオルトくんは私の顔を見るなりそう言った。

「一応、理由を聞いてもいい?」

「僕、人間の女の子の身体は見たことないんだ!男のヒトは、兄さんのをずっと見てきたから知ってるけど」

好奇心旺盛で、学ぶ意欲があるのは分かる。でも、流石にそれはと私の顔が引きつった。

「そのお願いは聞けないかなあ。ごめんね」

「どうして?僕はロボットだよ」

私の言葉に、オルトくんがこてんと首を傾げる。私はどうしたら伝わるかなあと思いながらも、苦笑いを浮かべてみせた。

「ロボットとはいえ。オルトくん、男の子だしさ」

「それじゃあ。僕がロボットの女の子だったら脱いでくれた?」

「まあ、うん。時と場合によるけど」

見た目が女の子だったとしても脱げと言われて、はいそうですかと裸を晒すのは抵抗あるけど。とりあえずその話はあとにしよう。それよりも、である。

「というわけだから、ごめんね。私、これから着替えるから談話室で待っててくれる?」

ひらりと軽く手を振ってから、クローゼットの中からラフな服を探しに行く。何を着ようかなあと考えていると、ふと、私の背後に影ができた。

「僕のしてみたいこと、付き合ってくれるって約束したじゃん」

「そう言ったけど。こればかりはねえ」

「ほら。早く脱いでよ」

「悪いけど。それはイデア先輩に頼んでくれる?きっと何とかしてくれると思うから」

クローゼットの中から洋服を取り出してくるりと振り向くと、想像以上に近くにオルトくんの姿があってびっくりした。私はつい、持っていた洋服を落としていく。

「もう一度聞くけど。このお願いは、僕が男の子だからできないの?」

表情を全く変えずに私を凝視するそれはロボットそのものだった。表情豊かないつものオルトくんと違う姿に、私は息を呑む。一拍置いて、私は躊躇うように口を開いた。

「うん。そう。オルトくんが男の子だから、できないの」

「それじゃあ。もう一つ聞くけど。いつかは、僕のお願い聞いてくれる?」

「いつかも何も。異性の前では脱げないよ。特別な関係でもないかぎりは。その辺りは、イデア先輩によく教えてもらった方がいいと思う」

「へー。そっか!」

オルトくんの表情が、パッと明るくなった。いつものオルトくんの姿に戻って、正直ホッとする。
 私が肩の力を抜くと、オルトくんが一歩進んでくる。それからオルトくんは両手を広げてみせた。

「お願いがあるんだけど。僕のこと、ぎゅうってしてくれる?」

「それくらいならいいよ」

オルトくんのお願いに、私は一つ返事で受け入れてオルトくんの小さな身体を抱きしめる。すると、すぐに私の背中にオルトくんの両手が回った。

「女の子って柔らかいね」

「そうかな?」

「うん。兄さんよりずっと柔らかいよ」

簡単に壊れちゃいそうなくらい。そう、耳元で言われた私は僅かに眉を寄せる。思わず、オルトくんの顔を見ると、私と目が合ったオルトくんはすっと目を細めて意地の悪い表情を浮かべていた。

「どうしたの?驚いた表情を浮かべて。だってそうでしょう?君の身体一つ、僕にはいくらでもどうすることができるんだよ」

あまりにも無邪気に言ってくるものだから、私の思考が停止する。そんな私を前にして、オルトくんは大層楽しそうに言ってのけた。

「君も、僕が男の子だって理解してたじゃん。どうせロボットとしか見てないと思ってたけど、これは嬉しい誤算だったなあ」

ずいと、オルトくんの顔が近づく。そして、オルトくんは小首を傾げながら、次のお願いをかわいらしく言った。

「ねえ。僕の唇にキスして」

「それは、」

つい、オルトくんから視線を外した。だけど、オルトくんは許してくれなかった。

「ほら。早く」

「そのお願いは、」

「だって。君は僕のしたいことを協力する約束をしたでしょう?それとも、僕が男の子だから照れてるの?」

「照れるというか。そういうのは、特別な相手とするものだよ」

ふーんとオルトくんは鼻を鳴らし、何てことないように言った。

「それじゃあ、問題ないよ。僕の中では、最初から君は特別な存在だから」

反射的にオルトくんに視線を向けると、既にオルトくんの綺麗な顔が私の目の前にあった。オルトくんの口元を覆うギアと、私の唇が僅かに触れる。ひやりと冷たい感触に私は思わず肩を震わせる。
 そんな私を見てオルトくんは大層嬉しそうに目を細めるのだった。

「僕に同情して、お願いの内容を確かめずに了承した君が悪いんだよ」

2023.05.21
同情|女監督生受け版ワンドロワンライ