
Bookso beautiful yet terrific.
朝、目が覚めると味噌汁の匂いがした。それに誘われるようにベッドから抜け出し部屋を出てリビングへ向かうと、キッチンにいた何処か私に似た女性が振り向いた。
「おはよう。早く食べちゃって。学校間に合わなくなるよ!」
私が欠伸を溢しながら席に座ると、テーブルの上にはあたたかい朝食が並んでいる。すると、庭先から空になった洗濯カゴを持った男性が現れた。
「今日は起きるの遅かったな。具合悪いのか?違うならいいが」
朗らかに笑った男性の目元が性別が違うのに私と似ている気がした。
私はいただきますと手を合わせてからお箸を持って朝食に手を伸ばす。1口目、おいしい。2口目、とってもおいしい。3口目、涙が溢れた。
「お父さん。お母さん。私ね、」
ふっと辺りが真っ暗になった。先程の女性と男性もいない。目の前にあったおいしい朝食もないし、私の手にお箸もない。
「おまえ達は、御伽話の主人公になる」
その声に導かれるように何処かに視線を向けると、誰かが私に手を差し伸べていた。私はぼんやりとしたまま何も考えずに手を取ろうとする。
しかし、背後から私の肩が掴まれた。驚いた私が伸ばそうとした手を引っ込めながら後ろに振り向くと、世界が急に眩しいくらいに明るくなった。
瞼を開けると私の目の前には青白く燃える美しい髪があった。視線だけで上を見ると、床に横たわる私に背を向けたままイデア先輩が立っている。
「幸せな夢を見てるところ悪いけど。早く起きて」
イデア先輩が私に振り向かずにそう言った。そのイデア先輩の左手には目を閉じて動かないオルトくんが抱きかかえられている。
ハッした私は身体を起こしてからイデア先輩の背中越しにさらに先を見た。そこには、禍々しいインクに塗れた友人の姿があった。
「つ、ツノ太郎?」
「そう。あれがツノ太郎氏。君の大事なお友達のマレウス氏だよ。それよりも、立てる?拙者、弟と君を抱きかかえて走れるほど体力ないので。陰キャの体力ゲージは基礎値の段階で恐ろしく少ないんですわ。だから強化しても無駄!」
早口で言ってのけるイデア先輩の言葉と、目の前にいるツノ太郎の姿に全てを察した。これはまずいことになった。きっと、今、世界が壊滅するほどの危機が迫っている。
不意に、ツノ太郎と対峙していたイデア先輩が私に振り向いた。それからその場に膝をつき、私と同じ目線の高さに合わせてから再度口を開いた。
「正直言って僕は、マレウス氏が世界を滅ぼそうがどうでもいい。僕は今すぐここから逃げるよ。とりあえずS.T.Y.X.本部に行けば何とかなるでしょ。僕はそこでひっそりこっそりとオルトと生きてくつもり。で?一応聞いてあげるけど、君はどうする?」
「え、」
「時間がないからすぐに答えて。君はマレウス氏とここでバッドエンドを迎えるか、僕と一緒にメリバエンドを迎えるか。どっち?」
イデア先輩から突きつけられた選択肢に私は口を閉ざす。目の前のイデア先輩と、その後ろにいるツノ太郎。つい、両方を見比べた。
「ほら。どうするの?マレウス氏を選ぶの?僕を選ぶの?何も答えなくても僕は君を連れて行くよ。そのために起こしたんだから」
その場からイデア先輩が立ち上がり、ツノ太郎に向き直る。私も急いで立ち上がり、オルトくんを抱えてない方のイデア先輩の袖を掴んだ。
「私は残ります。ツノ太郎を叩き起こすために」
私の答えに、イデア先輩があからさまに溜息を吐いた。イデア先輩は呆れた雰囲気を隠しもせずに返してくる。
「は?まさかと思ってたけど予想通りの答えですわ。あのラスボス級闇堕ちバーサーカーを正気に戻すの?君の頭大丈夫?」
「壊れたテレビだって叩けば直ります。だから、ツノ太郎だって釘バットで100回くらい殴れば何とかなるかもしれないですよ」
「発想が古くさすぎて草!!!だいたい釘バットって何!?田舎に住むおばあちゃんが実は元ヤンだった並みの衝撃なんですけどお!?」
「とにかく。私はツノ太郎をぶっ叩きます。イデア先輩、私を起こしてくれてありがとうございました。イデア先輩も、どうか気をつけて」
そっとイデア先輩の袖を離した。すぐに、パシッと私の手首が掴まれる。それから、私の手首を掴んでいたイデア先輩の手が移動して私の手を繋いだ。
「あーあ。聞いた拙者がバカだった。聞かないでさっさとS.T.Y.X.に連れて行けばよかった。こんなチャンス二度とないのに自分で棒に振るとか意味分からないですわ」
でも。と、ぎゅうと繋いだ手に力が込められる。私に視線を向けたイデア先輩は、ニィと歯を見せて笑った。
「始めから、分かってた。君って、お友達を見捨てられない非効率的主人公体質だし。だから僕は、君を好きになっちゃったんだよね。ま、仕方ないっすわ。サクッとラスボス倒して、エンディングといきますか」
2023.05.18