
Bookso beautiful yet terrific.
「始めから、分かってた。君って、お友達を見捨てられない非効率的主人公体質だし。だから僕は、君を好きになっちゃったんだよね」
紆余曲折あって、マレウス氏の変が解決して一応平和が戻ってきた現在。僕は、今、中庭の林檎の木を囲うように植えられている茂みの中で蹲っていた。
せせせせ拙者!!!よくかっこつけて監督生氏に告白したな!!!勢いっておっそろしすぎるんですけど!!!
と、先日彼女に告げた内容を思い出して絶賛自己嫌悪に陥っている。その噂の彼女は、茂みを挟んだ向こうにある中庭のベンチに座って仲良く談笑していた。マレウス氏と。
「人の子はおもしろいな。今度、茨の谷へ招待しよう。いつがいい?」
「ツノ太郎の方がおもしろいよ。茨の谷に?いいの?嬉しいなあ。学園を卒業するまでに行きたいね」
さらっと茨の谷へ彼女を連れて行こうとするマレウス氏に殺意が湧くし、そのマレウス氏の誘いを遠回しに断っている彼女に草。
だけど。僕と違って素直に思ったことを話せるマレウス氏が羨ましかった。あの時、どさくさに紛れて彼女に想いを告げたというのに、彼女からの反応はなく現在に至る。僕自身、彼女に返事を聞く度胸もなくそれっきり。
ふと、マレウス氏がベンチから立ち上がる音がした。
「では。僕はもう行くとしよう。今日はクラスメイトに共に移動教室へ行くよう誘われていてな。約束の時間は守らなければなるまい」
「そうなんだね!いってらっしゃい、ツノ太郎」
「ああ。人の子、また会おう」
マレウス氏を移動教室に誘う強者が現れたことに良いのか悪いのか考え込んでいる間に、ベンチの方から気配が消えた。代わりに、茂みの間にしゃがみ込む僕の目の前に緑色の粒子が現れる。その瞬間、僕と同じ目線でしゃがむマレウス氏が現れた。
「ヒッ!!!ま、マレウス氏!?なんで!?」
「この場所にシュラウドが隠れていることなんぞ最初から分かっていた。どうした?小さいシュラウドとかくれんぼか?」
僕の顔を凝視しては首を傾げるマレウス氏に僕はあわわわと震えるしかない。
「べ、別に。オルトと、かくれんぼなんかする歳でもないし」
「では、何故ここに隠れている?人の子に用事があるからではないのか?」
「ふぁっ!?」
さらりと核心を突いてくるマレウス氏に僕は口をぱくぱくと開け閉めするしかなかった。一方、マレウス氏は僕に気にせずすっとその場から立ち上がる。それから僕の気持ちなんぞ一切無視してまだベンチに残っていた彼女を呼んだ。
「人の子。シュラウドがここにいるぞ」
「ふぁっ!!!」
マレウス氏の突拍子のない言動に僕の脳が追いつかなかった。マレウス氏の意図がさっぱり分からない。
「人の子も、シュラウドに何か言うことがあるのではないか?あの日の返事をまだしていないだろう?」
僕はしゃがんだまま固まる。茂みの向こうにいる彼女の表情は分からず、言葉も発さないから怖い。
「では。邪魔者は退散しよう。シュラウド、人の子。伝えたいことはきちんと口にすることだ。後悔、しないように」
そして、マレウス氏は今度こそ姿を消した。周りに僅かに残る緑色の粒子が憎い。
かさり、と茂みをかき分ける音がする。僕が思わず頭を抱えると、彼女の足が僕の目の前で止まる。それから、僕と同じ目線になるように彼女もしゃがんだ。
「イデア先輩に、お聞きしたいことがあります」
そう言ってから、彼女が小さく深呼吸する音がする。再び、彼女が口を開いた。
「私の返事も関係なく、私をS.T.Y.X.に連れて行こうとした理由を知りたいです」
そういえば、勢いに任せてそんな大胆なことをしようとした自分の行動を思い出し、一気に顔に熱が集まる。だけど、恋人でも何でもないただの他人に連れ去られそうになった彼女の身に気づき、僕の顔が一瞬で青ざめていく。
「あの。僕は、」
頭の中で必死に言いわけを並べながらそーっと顔を上げると、彼女と目が合った。彼女は、笑うわけでも嫌がるわけでもなくじっと僕の言葉の続きを待っていた。
その瞬間、僕の心臓が一際大きく鳴る。先程、マレウス氏は言った。
「伝えたいことはきちんと口にすることだ。後悔、しないように」
脳内に再生されるマレウス氏の言葉に、僕は頷く。それから僕はまっすぐに彼女のことを見つめた。
「僕は、君が好きだよ。理由は、それだけ」
数回、彼女が瞬きを繰り返す。そして、くしゃりと嬉しそうに笑った。
「よかった。あれは夢ではなかったんですね」
夢だと思ってたの?と文句を言いたいのに、僕は何も言葉にできなかった。肩の力を抜いて脱力する僕を見た彼女が、さらに追い討ちをかけてきた。
「私も。イデア先輩のことが好きです」
彼女からのあの日の返事に、僕の顔と髪まで真っ赤に染まる。つい、恥ずかしさに僕はまた顔を膝に埋めてしまう。
かっこわるいのは分かってる。だけど、ようやく手に入れた彼女とのハッピーエンドに、しばらくは嬉しさで顔がニヤけるのを止められそうになかった。
2023.05.26