Bookso beautiful yet terrific.

 助けて。頭の中ではそう思っているのに身体が言うことを聞かず幸せな夢を享受する。具体的に幸せな夢というのは、元の世界での私の日常と、ツイステッドワンダーランドで過ごしてきた今日までの日々だった。
 確かに、幸せな夢をずーっと見ていたいと思う。元の世界に帰りたいのも事実だし、ツイステッドワンダーランドで出逢った人達と離れたくないのも事実。それに、ツイステッドワンダーランドには愛する人がいる。
 だけど。

「ごめんなさい、ツノ太郎。私、夢をずっと見続けるわけにはいかないの。幸せばかりが溢れない現実もちゃんと受け入れたいから」

 夢の中の私の身体を意地で動かした。一度瞼を伏せて、再び開く。まずは、瞳に力を込める。それから右手を大きく動かして幸せな光景に向かって叩きつけた。その瞬間、ガシャンとガラスが割れる音が響く。それと同時に、夢の世界が一気に崩れ落ちていった。


 瞼を開けるとディアソムニア寮の談話室だった。だけど、私の身体は固い床の上になく、愛する人の腕の中にいた。

「よかった!気がついたみたいだね」

私の顔を覗き込むように確認したオルトくんはホッとしたような声を出した。そのオルトくんは見たことないギアを纏っている。視線だけを動かしてオルトくんの背後を見ると、禍々しいオーラに塗れたツノ太郎に威嚇するように唸る大型犬がいた。私は再びオルトくんに視線を戻して尋ねてみた。

「オルトくん、だよね?見たことない姿だけど」

「これはね、ケルベロス・ギアだよ。マレウス・ドラコニアさんのオーバーブロットを感知しちゃったから、僕と兄さんにもS.T.Y.X.本部から対処するよう要請が入ったんだ。君には、お仕事モードの僕って表現した方が分かりやすいかな?」

「何となくだけど、理解したかも」

「うん。何となくでいいんだよ」

この場に不釣り合いのかわいい微笑みがオルトくんの口元に形作られる。
 私はオルトくんの腕の中から身体を起こし、インク塗れのツノ太郎を見る。ツノ太郎は私とオルトくんの姿を見ておもしろそうに笑っていた。

「小さいシュラウドと人の子は仲睦まじいとは思っていたが、そういうことだったのか。人の子は僕の友だからな。正直に言うと妬けるものがある」

いつもだったら、私は照れ笑いを浮かべながらツノ太郎に言葉を返していたと思う。だけど、目の前にいるツノ太郎は朗らかに話していい普段とは違う。

「ツノ太郎」

ぽつりとお友達の名前を呼んでみた。ツノ太郎は私に呼ばれて気を良くしたらしく微笑むだけだ。
 不意に、伸びてきた両手がぎゅうと私の身体を抱きしめる。オルトくんは私の肩にギアで隠された目元を押しつけながら口を開いた。

「あのね、お願いがあるんだ。僕と一緒に、世界を救ってくれる?」

「救う?世界を?」

「うん。そう。正直、マレウス・ドラコニアさんクラスのブロットの化身はそう簡単に何とかできないレベルなんだよね。だから、これは賭けになっちゃうけど。つまり君は、失敗したら僕と一緒にデッドエンドだし、成功したら僕と一緒にハッピーエンドを迎える。ね?いいでしょ?」

顔を上げたオルトくんが私を見る。目元が覆われているから分からないけれど、きっと、オルトくんは覚悟を決めて私にお願いをしているのだろう。私は両手を伸ばしてオルトくんの両頬に添える。それから、しっかりと首を縦に頷いてみせた。

「私ね。オルトくんと一緒ならどんな結末を迎えても構わない。だけど、どうせ立ち向かうならハッピーエンドがいいかな」

「そう言ってくれてすっごく嬉しいよ!ありがとう!」

心底嬉しいと言わんばかりにオルトくんの口元が弧を描いた。相変わらず、オルトくんはどんな表情を浮かべてもかわいい。

「それじゃあ、1回だけ!」

そう言ったオルトくんの顔がぐっと私に近づいて、そのままちゅうと唇が塞がれた。すぐに離れていくオルトくんに、私は添えていただけの両手に力を込めてオルトくんの顔を引き寄せる。そして、勢いで口付けを返してやった。

「私も1回だけ」

「もー。そんなにかわいいことをされたら1回だけで済まなくなるじゃん」

「先にしたのはオルトくんの方だよ」

「本当はもっといっぱいしたいの!これでも我慢してたのに」

「我慢しちゃうの?」

「我慢なんかしたくないよ。いっぱいいーっぱい君にキスしたいんだから!」

オルトくんの顔がまた近づいてくるので私は思わず瞼を閉じて受け入れる準備をする。
 その瞬間、それはそれは大きな咳払いが響く。オルトくんと私はお互いに顔を近づけるのをやめてそちらを見た。

「いいかげんにしてくれます!?今状況分かってる!?そこでラスボスが待ち構えてるの!!!そのラスボスを前にして何2人でいちゃついてるわけえ!?」

髪まで真っ赤に燃やしながら怒るイデア先輩の姿に、私とオルトくんは小さく声をあげる。

「ごめんなさい、兄さん。つい夢中になっちゃって」

「というか。イデア先輩、いつからそこに?」

「拙者も最初からいましたけどお!!!直視しないようにしてても君達が視界に入り込んできて目のやり場に困ってたんですけどお!!!」

発狂するイデア先輩に対し、ツノ太郎も笑い出した。

「まあ良いではないか、シュラウド。せっかく愛を確かめ合っているのだから、気が済むまでやらせてやろう」

「マレウス氏に拙者の気持ちが分かりますか!?仕事中に目の前で弟が彼女といちゃついてるのを見せつけられる陰キャオタクの兄の気持ちが!!!!!」

 ぷんぷんと怒り続けるイデア先輩をさておき、オルトくんは私に笑いかけた。

「とりあえず。僕と一緒に世界を救いに行こう!」

「うん!」

私を抱きしめるオルトくんの両腕に力が込もる。だから私も、私の覚悟が伝わるようにオルトくんの首に両腕を回して抱きしめ返したのだった。

2023.05.18