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「グリム!ご飯できたよ!」

 何でもない日の平日の夜。私はツナとトマトの冷製スパゲッティを盛りつけたお皿を2つ持って談話室へ足を踏み入れる。すると、オンボロ寮の談話室にこの時間いるはずのない人物がソファに座っていた。

「夕食時にすまない。キミに確認したいことがあって訪ねたのだけれど」

「ちょうど子分がスパゲッティを盛りつけてたところだから終わるまで待ってたんだゾ」

申し訳なさそうに肩を竦めるリドル先輩と、ちょっとだけ気まずそうな表情を浮かべるグリムの姿に、2人が私に気を遣ってくれたことは理解した。
 私は持っていたお皿を2つ談話室のテーブルの上に置いてからリドル先輩に向き直って尋ねた。

「リドル先輩。ご夕食はこれからですか?」

「寮に戻ったら食べるよ」

「もしよろしければ、ご一緒にいかがですか?」

「いや、しかし、」

私の提案にリドル先輩があからさまに躊躇う。一方グリムは、私をじとりと睨んだ。

「さてはオメー。またやっちまったのか?」

「おかわり用に多めに用意しただけです」

「オメーの多めって尋常じゃないんだゾ」

はあと深く溜息を吐くグリムをさて置き、私はリドル先輩に再度問いかける。

「というわけで。いっぱいあるんです。いかがですか?」

私が軽く笑ってみせると、リドル先輩が考える素振りを見せる。一拍置いて、リドル先輩は決心したように頷いてから微笑んだ。

「お言葉に甘えて、ご馳走になるよ」


 談話室のテーブルには2人と1匹分の夕食が並んだ。本日のメニューは、ツナとトマトの冷製スパゲッティに、サーモンとエビとアボカドのカルパッチョ、パセリを散らしたチキンスープだ。

「まるでモストロ・ラウンジで注文したメニューみたいだね」

リドル先輩がフォークを手に持って瞬きする。グリムは慣れたように自分のお皿に盛った料理をフォークであっちこっちにぐさりと刺して大口を開けて食べ始めた。

「うっまー!リドルも冷めないうちに食べるんだゾ!」

「冷製スパゲッティだけど」

「す、スープはあったかいんだゾ!」

「はいはい」

グリムにツッコミを入れながら私はいただきますと言ってからフォークを料理に伸ばす。リドル先輩も私と同じタイミングでいただきますと言ってからフォークをスパゲッティに絡ませて口に入れた。

「お、おいしい!」

一口食べて、また一口と食べ進めるリドル先輩に、グリムが満足げにニヤリと笑う。

「そうだろう!子分の作るご飯は世界で1番うめーんだゾ!」

まるで自分のことのように嬉しそうに褒めてくれるグリムに私は苦笑いを浮かべる。だけど、おいしそうに食べてくれるのは悪い気はしない。

「おいしいよ。凄く」

リドル先輩が噛みしめるようにそう言ってくれたので、私は照れ笑いする。

「ありがとうございます」

とりあえず、お礼を述べるだけでいっぱいいっぱいだった。
 そんなに和気あいあいとした雰囲気ではないけれど2人と1匹で談笑しながら食事を進めていく。私はふと、リドル先輩がオンボロ寮にやって来た本来の目的を思い出して口を開いた。

「あの。確認したいこと、とは?」

「ん?ああ、」

リドル先輩がフォークを持ったまま思い出したように反応する。それからすぐに唇を尖らせてみせた。

「ハーツラビュルの1年生から聞いたのだけど。今日の魔法薬学の時間にエースがクラスメイトと一緒にふざけた拍子に、薬品をキミにかけたというのは本当かい?」

「え!?そうなのか!?」

リドル先輩からの問いかけを聞いたグリムが目を真ん丸にさせながら私の顔を見る。私はその時のことを頭の中に浮かべながら答えた。

「グリムはデュースと一緒に別の授業を選択していたから知らなかったっけ。確かに、エース達がビーカーにぶつかってきて、その中に入っていた薬品が私の実験着を少しだけ汚しちゃったんだけど。わざとじゃないし大したことなかったので」

「オレ様初めてその話を聞いたんだゾ」

「言わなかったから」

「でもなあ」

グリムがうーんと首を捻る。一方リドル先輩は眉間に深く皺を刻んで溜息を吐いた。

「うちのトランプ兵が申し訳なかった。万が一があってからでは済まない話だ。次は無いとよく言い聞かせておくよ」

「わざとではないので。この話はどうかこれで終わりにしていただけませんか?」

「そういうわけには。せめてハーツラビュル寮長であるこのボクがキミにお詫びをしたい」

「ずいぶんと大袈裟な話になりましたね」

私はつい苦笑いを浮かべる。きっと、エースとクラスメイト達はこの話をリドル先輩の耳に入った時点で大層怒られたのだろう。
 それならばと私は顔を上げる。そして、リドル先輩に1つお願いをすることにした。

「お詫びは、私の作ったご飯をリドル先輩が食べるというのでどうでしょうか?」

「それの何処がお詫びなんだい?」

「以前、グリムから聞いたと思いますが。私、どうも作りすぎちゃうんです。だから、消費するのにご協力をお願いしてもよろしいでしょうか?勿論。無理にとは言いませんが」

私のお願いにリドル先輩が考える素振りを見せる。しばらく考えを巡らせてから、リドル先輩は頬を緩めたのだった。

「分かった。そうしよう。次に作り過ぎたら、ボクに必ず連絡すること。いいね?」

「はい」

 こうして、リドル先輩とはお食事仲間になった。

2023.06.10