
Bookso beautiful yet terrific.
金曜日の放課後。出張先から戻ってきた学園長がオンボロ寮にやって来た。
「出張先が極東の国でしたので。あなたにお土産です。私、優しいので」
仮面越しに目を細めてそう言った学園長が指を鳴らす。その瞬間、オンボロ寮の厨房でドサドサと大きな物音が鳴った。
学園長に促された私は、学園長と共に厨房へ向かう。すると、そこにはコシナナヒカリという品名の大きな袋と、1升炊きの炊飯器があった。
「極東の国では一般的なお米と炊飯器です。あなたならとても喜んでいただけるのではないかと思いまして」
悪戯が成功したように弾んだ声で話す学園長の言葉に、私は嬉しすぎて目を輝かせた。
「ありがとうございます。これでぜひたくさん作りますね」
「喜んでいただけて良かったです。ですが、ほどほどにしてくださいね」
「はい。気をつけます」
翌日の土曜日。私は朝4時に起きていた。子供の頃から母に教わっている水加減でお米を研ぎ、炊飯器を炊飯モードにする。ご飯が炊けるまでの間に、Mr.Sのミステリーショップで手に入れた焼き海苔を全て同じ大きさになるよう細長い長方形に切っていく。どうせならと閃いた私は冷凍庫の中から下処理済みの海老を取り出して卵と小麦粉と塩を溶いた液に潜らせて油で揚げた。それでもご飯が炊けるまでまだまだ時間があるので、ついでに出汁巻き玉子を焼き、きゅうりの浅漬けを作り、お味噌汁も用意した。
そうして、現在6時を過ぎた頃。私は厨房の台の上にずらりと並ぶおにぎりの大群を前にして頭を抱えたのだった。
「オメーがお米と炊飯器ってやつをすっげー喜んでたのは知ってたんだゾ。でも、これは作りすぎなんだゾ!!!」
6時半前には起きてきたグリムが厨房に顔を出した瞬間そう叫んだ。天むす、ツナマヨ、鮭、昆布、梅、おかかのおにぎり。それだけではなくチーズおかかやワカメとしらすのおにぎり。炊飯器の他に土鍋で炊き込んだはらこ飯風のおにぎり。醤油が芳しい焼きおにぎり。そこにきゅうりの浅漬けに出汁巻き玉子に豆腐とワカメのお味噌汁がある。グリムが起きる前に、おにぎりには1つ1つサランラップで包装しておいた。
「これ。リドルを呼んでも食べ切れないんだゾ」
しょんぼりと項垂れるグリムだけど、ぐーっとお腹の音が鳴った。何故だろう。説得力が無くなった気がする。
私は大量のおにぎり達を前にして、少し考える。お食事仲間のリドル先輩を呼びたいが、リドル先輩だって今頃ハーツラビュル寮内の食堂で朝食を食べていることだろう。それならば、昼食にエースとデュースをオンボロ寮に招待しておにぎり達を消費してもらおうかと考えたけれど。2人にも予定があるかもしれない。
「まあいいや。とりあえず、食べてから考えよう」
「そうだな。オレ様も腹減ったんだゾ。つーか、相変わらずオメーが作るご飯はうまそうな匂いがするんだゾ」
「グリムがおいしそうに食べてくれるおかげだよ」
とりあえず考えていても仕方がないので1人と1匹で手分けしながら朝食の準備を始めた。
ふと、オンボロ寮の呼び鈴が鳴る。ゴースト達が玄関先で出迎えると、その客人の足音は迷わず厨房にやって来た。
「朝早くにすまない。お邪魔するよ」
「り、リドルー!!!」
リドル先輩が厨房に顔を出した早々にグリムがおにぎりをいくつか持ったままリドル先輩に向かって飛びつく。いきなりのことに驚いたリドル先輩はグリムと厨房に並ぶおにぎり達を交互に見てから苦笑いを浮かべた。
「1人と1匹分の朝食にはずいぶんと量があるように思うけど」
「うっかり作りすぎちゃって」
「うっかり?これが?」
リドル先輩がうーんと首を傾げてしまった。
そこに、数枚の鴉の羽根が舞ったかと思えば何もないところから学園長が姿を現した。
「お邪魔しますよ!!!」
学園長はやって来て早々、厨房内を見回す。それから仮面越しに目を細めた。
「ちょうどよかった。ほどほどにと念を押しても、あなたなら今朝には作り過ぎる気がしていたんですよ。これ、いただいても?」
「え?あ。はい」
「実はクルーウェル先生とバルガス先生とトレイン先生とサムさんの分もいただきたいんです。学園の設備の不具合が起きたので4人とも明け方から職員室に詰めておりまして」
「そういう事情でしたら。私が作った料理でよければ」
「いやー。助かります。あなたが作った料理なら先生達もとても喜んでくれるでしょう」
そんなこんなで、学園長を含めた5人のおにぎりと出汁巻き玉子ときゅうりの漬物を用意する。お味噌汁は熱々にあたため直してからオンボロ寮にあるお椀によそり、学園長が魔法を使って職員室に転送させることになった。
「ではではみなさん!!!ごきげんよう!!!」
こうして、学園長は嵐のように去って行った。厨房には2人と1匹分で食べるには十分な量の食事が残っている。私はリドル先輩に向き直って尋ねた。
「リドル先輩。朝食はもうお済みですか?」
「いや。これからだよ」
「ご一緒に、いかがですか?」
「うん。ぜひ、そうするよ」
リドル先輩がふふふと笑って了承する。そして、私とリドル先輩とグリムは手分けして朝食の準備を始めたのだった。
「そういえば。どうしてリドルはこんな朝早くにオンボロ寮まで来たんだゾ?」
グリムの質問にリドル先輩はああと口を開ける。
「馬術部の当番で厩舎に行き、その帰りにオンボロ寮に寄ったんだよ」
「うちに用事でもあったのか?」
「いや、そういうわけではないのだけれど、」
リドル先輩が私の顔を見る。逡巡する素振りを見せてから、リドル先輩は照れ笑いを浮かべたのだった。
「キミのストレスが爆発しないか。心配でついね」
2023.06.10