
Bookso beautiful yet terrific.
ある日の休日。厨房でことこと昆布の佃煮を煮詰めながら、私はオンボロ寮の談話室に設置したソファに座り熟れた梅のヘタを取りながらテレビを見ていた。テレビの向こうでは、かわいくてかっこいいイケメン俳優による、ヘンゼルのかまどの過去回が放送されている。
「シャルロットかあ」
ヘンゼルのかまどを眺めながら、つい幼い頃のことを思い出した。パティシエである父方の祖母が私にシャルロットを作ってくれたことがある。中のババロアが滑らかな舌触りでおいしかった。
不意に、オンボロ寮の呼び鈴が鳴る。私がソファから立ち上がる前にゴースト達によって出迎えられた客人もといリドル先輩が談話室に姿を現した。
「これは、一体?」
リドル先輩は談話室のあちこちにシートを敷いてごろごろと転がしている梅に気づき目を見開いた。一方私はヘタを取る手を止めないままリドル先輩の疑問に答えた。
「梅干しを漬けるんです。今は梅の下準備中と説明した方が分かりやすいかもしれないですね」
「ああ。それでグリムはエース達を訪ねてハーツラビュルにやって来たんだね」
「談話室を梅だらけにしちゃうので。グリムにはしばらく遊びに行ってもらうことにしたんです」
へーと相槌を打ったリドル先輩は私が座るソファにやって来る。それから遠慮がちに私の隣の席に座った。
「梅干しというのは、先日のおにぎりに入っていた赤くて酸っぱい果実のことかい?」
「はい」
「あれをキミが作るの?」
「前回作った分はあのおにぎりの時に使い終わってしまったので」
「キミの料理の腕前には感心するよ」
リドル先輩と話していると、厨房の方からタイマーの音が鳴り響く。そんなに時間がかからないうちにタイマーの音は止み、そしてゴーストが談話室に顔だけを覗かせた。
「おーい!コンロの火、止めたからね」
「すみません。ありがとうございます」
それだけ言ったゴーストがその場から去って行く。一方リドル先輩は厨房から漂うお醤油を煮詰めた匂いに反応して首を傾げた。
「他にも何か作っているのかい?」
「昆布の佃煮を鍋で煮詰めていたんです」
「昆布?確かおにぎりの具に入っていたと思うけれど。あれもキミが?」
「はい」
リドル先輩の質問に答えながら、最後の1つの梅のヘタを取り終えた。
私はソファから立ち上がり、ヘタを取り終えてシートに転がしたままの梅を水洗いするためカゴの中に集めていく。ちょうどその時、ヘンゼルのかまどではシャルロットの作り方を放送し始めた。私は動きを止めてテレビの向こうにいる俳優の手際に釘つけになる。つい、パティシエの祖母の姿と重なった。リドル先輩は私の視線につられるようにテレビを見た。
「見た目がかわいらしいケーキだね」
リドル先輩の率直な感想は、私が幼い頃に初めて祖母が作ったシャルロットを見た時と同じだった。
再び、私は梅を集めるのを再開する。梅がたっぷりと入ったカゴがいくつかできた。私がその内の1つのカゴを持つと、リドル先輩もソファから立ち上がって残りのカゴを持ってくれた。
「この梅を、次はどうするの?」
「厨房で梅を水洗いして、しっかりと水気を拭いてから下漬けです」
2人の足が厨房へ向かう。私はつい先程まで見ていたヘンゼルのかまどを思い出してリドル先輩の横顔を見た。
「梅の下漬けを終えたら、シャルロットを作りますね」
私の言葉を聞いて振り向いたリドル先輩は、何の迷いもなくそれはもう滑らかな仕種で頷いたのだった。
「来週末。予定を空けて待っているよ」
2023.06.11
smooth|女監督生受け版ワンドロワンライ