
Bookso beautiful yet terrific.
日本への一時帰国から戻っていたらしい在坂とたまたま市場で遭遇した。私に気づいた在坂は器用に人混みを避けながら私の元へ来る。私もまた人混みを何とか避けながら在坂の元へ行った。
「おかえりなさい、在坂」
「ただいま、マスター」
久々の再会にお互いに頬を緩ませる。それから私達は並んで市場の中を適当に歩き出した。
「いつ戻ったの?」
「昨日の夜には到着した。マスターは任務で留守だったので声をかけずにすまない」
「ううん!私の方こそ。今まで出迎えられなくてごめんね。私も、さっき任務から戻ったばかりで、その足で市場に来ちゃったしさ」
「マスターが気にすることはない。寧ろ、在坂が任務帰りのマスターを出迎えられたことを嬉しく思う」
「ありがとう。在坂は優しいね」
「そうだろうか?マスターが言うのなら、在坂は嬉しい」
たくさんの人混みのせいで、お互いの話し声が遠くなっていく。そのせいで、私と在坂は自然と肩を寄せて進んだ。
ふと、在坂が思い出したように声を上げる。それから私の手を軽く握っては優しく引っ張った。
「向こうに花火が売っている。行こう、マスター」
私が何かを言う前に、在坂は気にせずどんどん足を進めていく。在坂が向かった先には日本人と思われる店主が店を開く花火屋だった。
「線香花火はあるだろうか?」
「線香花火?勿論あるよ!」
「1セット、購入する」
「まいどあり!」
日本語で慣れたように花火を売買する店主と在坂を交互に見ては私は瞬きする。一方の在坂は、お会計をするためにあっさりと私の手を離した。
つい、温もりが無くなった自分の手を見つめてしまう。すると、花火の購入を終えて私に振り向いた在坂が再び手を差し出した。
「行こう。マスター」
きっと、在坂に他意は無い。だけど、差し出された手を取ってもいいのか躊躇いながら見つめていると、痺れを切らした在坂が勝手に私の手を取って繋ぐ。そして、再び歩き出した。
「在坂は、線香花火が好きだ。静かに、美しく燃える炎が綺麗だと思う」
「確かに」
不意に、ぴたりと在坂の足が止まる。つられて私も歩くのをやめると、在坂が私を見上げて笑った。
「任務帰りのマスターに1番に会えてよかった。在坂は、マスターと2人だけで線香花火をやりたかったから」
在坂からの思わぬ言葉に私が瞬きすると、在坂は気にせず歩くのを再会する。その足取りは、とても楽しそうに軽やかだった。
2023.07.30