Bookso beautiful yet terrific.

 初めて彼女と出会った時、私の世界に光が差し込んだ。彼女は突如、悪魔執事達の主人となったことに大層戸惑っていたけれど、数日もすればこちらが拍子抜けするほどすっかりと馴染んでいた。
 そんな彼女と一息つく時間が私は好きだった。私が厳選した茶葉で淹れた紅茶を飲んでは、おいしいと太陽のように眩い笑顔を浮かべる彼女を愛おしいと思った。
 私の心に光を差し込むくせに、彼女ときたら屋敷の執事達に平等に笑顔を振り撒いていた。このお洋服素敵だね!今日のランチもおいしいよ!など、私以外の執事を誉める彼女の姿を私は目で追い続けた。私はまるで、眩い太陽に焦がれる向日葵になった気分だった。
 だから私は、太陽は沈まないと勝手に思い込んでいた。


 今日も彼女はあちらの世界とこちらの世界の行き来を繰り返し、ようやく夜になってデビルズパレスの自室で腰を落ちつけるようになった。
 就寝前に、ゆったりと寛げるように私が淹れたハーブティーを受け取った彼女は一息つく。それから、今日あった出来事や私以外との執事との話の内容を眩い笑顔で私に教えてくれた。ムーちゃんは、何故か今日は2階の執事室でパジャマパーティーらしく珍しくこの場にはいなかった。
 胸に痛みを感じながら、彼女がハーブティーを飲み終わるのを待つ。そして、頃合いを見てはティータイムを切り上げる。手早くティーセットを片付けた私は彼女の部屋を出た。
 思わず、振り返ってたった今自分で閉めた扉を見つめてしまう。この扉の向こうに、私が焦がれる太陽がいる。

「あ、」

無意識に、扉をノックしようとしていた自身の右手に気づいて慌てて引っ込める。彼女とまだお話がしたい、できれば、私ではない他の執事の話ではなく彼女のことか私の話を聞きたいと思う私は愚かだ。
 太い息を吐いた時、扉がひとりでに開いた。驚いて扉から飛び退いた私を、扉の向こうから顔を出した彼女が躊躇うように見た。

「ベリアン」

いつものような眩い太陽のような笑顔ではなく、瞳の奥をゆらゆらと揺らした頼りない表情をした彼女の姿に私は息を呑む。

「もう少しだけ、お話を聞いてくれる?」

 彼女からの願いに、執事らしく、かしこまりましたとすぐに答えたいのにそれができなかった。今にも沈んでしまいそうな暗い陰をほんのりと纏った彼女に、私は思わず衝動的に両手を伸ばしていた。

「あの。ベリアン?」

私に抱きしめられた彼女が戸惑ったように私を呼ぶ。消え入りそうな声音に、私は抱きしめる両手に力を加えた。

「お話の前に。もう少しだけ、このままで」

 私は、沈みそうになる危うさを持つ太陽が、愛おしい。

2023.07.23