
Bookso beautiful yet terrific.
ハウレスの手が、私の手にぶつかった。私の指先に触れたことに気がついたハウレスが大袈裟なくらい力いっぱいに自らの手を引っ込める。そして、ほんの僅かに焦った表情をしたかと思えば、いつも通りの態度で執事らしく返してきた。
「主様。申し訳ございません。俺の不注意で、主様のお手に不躾にも触れてしまって」
そんな些細なことでハウレスが謝る理由が分からなかった。
私の自室にやって来たハウレスが、私が席につくテーブルの上に散らかる本を片付けていただけ。その内の一冊がまだ読み終わっていないので、それだけはまだ片付けないでと私が手を伸ばしたことが始まりだった。
ハウレスの視線が泳ぐ。私と目を合わせず気まずそうにするハウレスの姿に、私も視線だけを下に向けた。ハウレスは、毎日のように何かと理由をつけては私の元を訪ねてくる。それなのに、ハウレスときたら私を前にすれば気まずそうに表情を強張らせるのだから。私には、ハウレスの考えていることが分からない。
そーっと、ハウレスを見上げると、私の側に立つハウレスがこちらを見ていたらしくバチッと視線が合った。その瞬間、ハウレスの目が真ん丸になる。再び、気まずそうに視線を右往左往させてしまった。
「あ!そうだった」
大袈裟なくらいの態度で私は席を立つ。それからハウレスに顔を向けて無理やり笑顔を作った。
「ごめんなさい、ハウレス。私、ベリアンに用事があるの。少し、席を外すね」
ハウレスと視線が合う前に私はくるりとハウレスに背を向けて部屋を出ようとする。正直、ハウレスと一緒にいると気まずくて息が詰まる。それならば、ベリアンの元へ行っておいしい紅茶を淹れてもらった方がいい。
しかし、その考えは叶わなかった。
後ろから伸びてきた手が私の肩を掴み、そのままくるりと身体の向きを変えられる。至近距離で私を見下ろすハウレスの目が、まっすぐに私を射抜いた。
「あなたは、」
そこまで言いかけて、ハウレスがぐっと押し黙る。何か苦しそうで、つらそうで、少し怖い雰囲気をハウレスから感じ取った私はどうしたらいいか分からず言葉が出なかった。
不意に、私の背後にあった自室の扉が勢いよく開いた。ノックもなく開いた扉の向こうからやって来た人物が私とハウレスの間に無理やり身体を滑り込ませる。そして、戸惑った声で、ベリアンは私を呼んだ。
「主様?大丈夫ですか?」
何を大丈夫かは分からないが、私はとにかく首を縦に振ることしかできなかった。そんな私を、ベリアンが肩越しに見てはホッとした表情を浮かべる。それから、再びハウレスと向き直った。
「ハウレスくん。どうしたのですか?何かあったのですか?」
「ベリアンさん。俺、」
ベリアンの背中越しにハウレスを見ると、ハウレスは肩を落としていた。しかし、顔を上げたハウレスは何かを決意したように強い眼差しで私とベリアンを見る。
そして、ハッキリと言ったのだった。
「俺は、主様のことをお慕いしております。主人ではなく、1人の女性として」
ぴくりと、ベリアンの肩が跳ねる。私以上に動揺するベリアンに対し、ハウレスは続けた。
「ベリアンさんが彼女のことを心の底から愛しているのを知っています。だけど。お2人を黙って見ていることなんぞ、俺にはできません」
「ハウレスくん。何を言って、」
途切れ途切れに聞き返すベリアンに構わず、ハウレスは私に言った。それは、宣戦布告だった。
「俺は必ず、あなたを俺だけのものにします」
ハウレスの宣言に反応するようにベリアンの手が私を守るように伸ばされた。ベリアンの表情は、私からは見えなかった。
2023.07.30