
Bookso beautiful yet terrific.
7月7日の放課後。私は天文学の本を数冊選んでから図書室を出たところだった。本日の夜は快晴。スマホで天気予報を確認した時も、星空がばっちり見える良い天気だと載っていた。
オンボロ寮の前庭にある小高い丘なら周りの木々に邪魔されず星空鑑賞できるだろうなあと、私は内心わくわくしながら廊下を進む。だから、ちゃんと前を見てなかったと気がついたのは私の身体に横から衝撃が加わった時だった。
曲がり角から現れた人物と思いっきりぶつかり、私が持っていた天文学の本がバサバサッと音を立てて廊下の上に落ちていく。
「すみません!」
「いえ。僕の方こそ。お怪我はありませんか?」
申し訳なさそうな表情で私の顔を覗き込むアズール先輩に私は再度大丈夫だと伝えた。それから廊下に散らばる天文学の本を拾おうと慌ててしゃがんだ。急いで本をかき集める私の目の前に、私が落とした本達が差し出されたので、驚いて差し出した張本人であるアズール先輩に顔を向けると、私と同じ目線でしゃがんだアズール先輩が眼鏡越しにやんわりと目を細めてみせた。
「こちらで全てですか?」
「あ。そうです!ありがとうございます」
アズール先輩に差し出された本達に手を伸ばして受け取ろうとした瞬間、先に本を持っていたアズール先輩の手に僅かに触れてしまった。思わず、私は勢いよく自らの手を引っ込めてしまう。すると、私が受け取るだろうと思ってアズール先輩が本から手を離したこともあり、本達は再び廊下の上へ落ちていった。
「あ、」
どちらの声だか分からない呟きが口から溢れる。私はアズール先輩と触れた手を両手で包むようにぎゅうと握りしめながら俯いた。
「どうかしましたか?やはり。先程怪我を、」
「ち、違うんです!」
気遣ってくれるアズール先輩に対し、私はぶんぶんと首を横に振る。それから、アズール先輩と視線を合わせられないまま、ぼそぼそと理由を伝えた。
「お、男の子と。手を触れたこと、なかったので」
「え、」
「それだけの理由なんです」
一拍置いて、アズール先輩がずいと私に近づく気配がした。私が恐る恐る顔を上げると、アズール先輩はいつのまにか拾い直した本達を私に差し出しながら頬を緩めた。
「僕も。女の子と手が触れたのは、あなたが初めてです」
ふふふと柔らかく笑ってみせるアズール先輩に、私は瞬きを繰り返す。
そんな私を余所に、私がまだ受け取らない本達の表紙に目をやったアズール先輩は、再度私と目を合わせた。
「もしかして。あなたも今日、星空鑑賞する予定ですか?さぞ綺麗な天の川が観られるでしょうね」
アズール先輩の言葉に私はまた瞬きする。ツイステッドワンダーランドにも、七夕というお祭り行事があるのだろうか。
「アズール先輩は、七夕をご存知ですか?」
「そりゃあ知っていますよ。極東の国の行事だと記憶しています。今日が、その日ですよね?」
「はい」
「と、言っても。僕は海の中で産まれて育ったものですから、七夕に詳しいわけではありません。ただ、幼い頃からずっと、この時期になると天の川を観るために星空鑑賞することが恒例になっています」
そう言ったアズール先輩に再びずいと本達を差し出された。私はようやく両手を伸ばして本を受け取る。今度はアズール先輩の手に私の手がぶつからないように気をつけて。
「お互いに。今日が素敵な星空鑑賞の日になるといいですね」
天文学の本達をぎゅうと両腕で抱きしめながらアズール先輩に伝えると、アズール先輩が一瞬だけ目を丸くさせる。だけど、すぐに穏やかな表情を浮かべて目を細めたのだった。
「ええ。そうですね、お互いに。何処で天の川を観ようとも、空は繋がっているものですから」
2023.07.12