
Bookso beautiful yet terrific.
麓の街へ出かけた時、幸せそうな顔で笑う家族連れが写真館から出て来るところに居合わせた。一緒にいた子供の髪にはワックスでセットした形跡が残っている。きっと、何かの記念日で家族写真を撮ったのだろう。
ふと、私の頭の中に元の世界での思い出がよみがえる。私の家族は、お祝い事や記念日に合わせて必ず写真館へ出かけていた。私が産まれてから、この世界にやってくるまでの間に撮った写真の数はいくつあっただろうか。ニューボーンフォトに始まり、毎年のバースデーフォト、初節句、七五三、卒入学、1/2成人式など。挙げれば切りがない。
懐かしさと寂しさを思い出しそうになり、私は慌てて胸の奥に感情をしまい込む。それから、大きく深呼吸してから私はいつのまにか止めていた足を動かした。
そんなこんなで、ある日の平日の放課後こと。オンボロ寮のチャイムが聞こえた私はパタパタと玄関まで行き、返事をしながら客人を出迎えるために扉を開けた。
「こんにちは」
扉の向こうにいたアズール先輩が私の顔を見るなりにっこりと微笑んだ。私も、アズール先輩につられて頬を緩ませてみせる。
「こんにちは。アズール先輩」
「早速、お邪魔しても?」
「え?ああ、はい!どうぞ」
アズール先輩に言われるままに私がアズール先輩を中へ招き入れると、当のアズール先輩は迷わず室内に足を踏み入れる。それからまっすぐに談話室へ向かって行った。私は首を傾げつつもアズール先輩の背中を追いかけて同じく談話室に入る。すると、先に談話室にやって来たアズール先輩は、勝手にその辺にあった1人がけの白い椅子を運びバルコニーに通じるフランス窓の前に置いてみせた。
アズール先輩の奇行に私がつい首を傾げると、そんな私に構わずアズール先輩が口を開いた。
「今日、グリムさんの姿が見当たらないようですが?」
「グリムなら、ハーツラビュルへ寄り道してますよ」
「そうですか。なら、好都合です」
アズール先輩の言わんとする意味が分からず私は再度首を傾げてしまう。そうしている間にも、アズール先輩は室内をぐるりと見渡してから自身のマジカルペンを持ち何回か振ってみせた。
マジカルペンから放たれる光の粒子の中から、窓と椅子が写ると思われる位置に三脚が現れる。その三脚にはプロのカメラマンが扱うような立派なカメラが設置されていた。
「あの。アズール先輩?」
「さて。あなたはそこの椅子に座ってください」
何故?と思いながら瞬きを繰り返すと、アズール先輩が小さく笑う。そして、再度私に促した。
「さあ。どうぞお座りください」
アズール先輩が言うのなら何か意味があるのだろうと自分に言い聞かせながら、私は言われた通り白い椅子に座ってみせる。それに対し満足そうに頷いたアズール先輩は、自身のマジカルペンをもう一度振ってみせた。
その瞬間、私の身体が光の粒子に包まれる。眩しさに思わずぎゅうと目を瞑ると、光が一瞬で消えた気配がした。ゆっくりと瞼を開けると、私の視界に煌びやかなドレスが目に入る。え?と思いながらその場から立ち上がり、椅子の後ろにある大きなフランス窓に振り向く。そして、そこに写る自分の姿に驚いた。綺麗に化粧を施した顔に、優雅にヘアメイクされた髪に、私を着飾ってくれるアクセサリーと煌びやかなドレス。まるで、自分ではない私の姿に言葉を失った。
「ほら。きちんとお座りください。撮りますよ」
楽しそうに笑いながら言ってのけるアズール先輩に私が振り向くと、アズール先輩はそうそうと思い出したようにさらに続けた。
「今日の撮影内容は、ナイトレイブンカレッジへの入学のお祝いとあなたのバースデーフォトです。そのドレス、とてもお似合いですよ」
私は、何と返していいか分からなかった。何故、アズール先輩が撮影をセッティングしてくれたのか理由は分からない。私の写真館での思い出は、エースとデュースとグリムにも話したことがない。
だけど。そう思いながら、私は綺麗な生地で仕立てられたドレスをきゅっと両手で握る。それから、懐かしさと嬉しさでいっぱいになった感情のまま笑ったのだった。
「アズール先輩って、魔法使いみたいですね」
私の言葉に、今度はアズール先輩が瞬きした。でも、すぐにハハッと声に出して笑うのだった。
「あなたの喜ぶ顔が見られるのならば、それも悪くないな」
2023.07.30