Bookso beautiful yet terrific.

 猛暑続きにうんざりしていたある日、夕立が起きた。私はバケツをひっくり返したような雨を士官学校の玄関から睨みつけるように見つめ続けている。雨が降り出してそろそろ10分くらい経つが、まだまだ雨は止んでくれそうにない。
 寮まで走って帰るしかないかと深々と溜息を吐いた。突然の雨とはいえ、備えておかない自分が悪い。

「候補生くん?」

 そろそろ雨の中を走り出そうとした時、聞き慣れた声に振り向くとラッセル教官が目を丸くさせながらこちらを見ていた。

「もしかして、傘を忘れたのかい?」

私の現状を瞬時に把握したラッセル教官の表情が段々と緩んでいく。そして、とうとう笑い出してから私の元へ歩いて来た。

「しっかり者の君が傘を忘れるとは。かわいいな」

「かわいいって、」

「すまない。不快にさせるつもりはないんだ。ほら、行こうか」

そう言って、ラッセル教官は自身が持っていた傘を広げ、それから私の背中を軽く叩いて歩くよう促した。

「寮までで、よかったかな?」

「ラッセル教官はどちらへ向かう予定だったのですか?」

「大切な教え子が困っていたら、目的地はそちらへ向かうことだよ」

なんて言いながら柔らかく笑うラッセル教官に、私の頬が熱くなる。大人の男性ってやつはずるい。

「では。お願いします」

「うん。お願いされました」

私の言葉に、悪戯っ子のように返すラッセル教官に私もついに笑った。
 それからは。土砂降りの中、一つの傘の下でお喋りしながら寮への道をゆっくりと歩んだ。


 固く閉じていた目を開けると、寮の自室のベッドに1人きりだった。腕の中には、あの日ラッセル教官が私を送り届けてくれた傘がある。

「ラッセル教官、」

 私は、もう一度傘をぎゅうと抱きしめ直す。そして、再び固く目を閉じた。

2023.08.20