
Bookso beautiful yet terrific.
彼女を最初に見つけたのは俺の方だった。
中庭にある林檎の木の下でいつものように眠っていたら、彼女が空の上から落ちてきた。俺の身体にぶつかった物音と衝撃に何事かと素早く身を起こすと、すぐ側で申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女の眼鏡越しの瞳と目が合った。
「すみません!!!お怪我はないですか!?」
おろおろと狼狽する彼女の姿に、悪気があったわけではないのをすぐに理解した。彼女に何故空から落ちて来たのかと事情を尋ねると、彼女曰く友人の箒の後ろに乗せてもらった彼女はその友人の操縦ミスにより箒の上から振り落とされたらしい。
「私、魔力がないので。みんな気を遣って箒の後ろに乗せてくれるのですが、」
そう話した彼女は、ずり落ちた大きなレンズの眼鏡越しに悲しさと寂しさのような曖昧な表情を浮かべて苦笑いした。まるで、彼女自身がちっぽけな存在に思えるような、そんな表情だった。
俺は彼女から視線を外して意味もなく天を仰ぐ。確かに、彼女の友人ならばまだ1年生で人によっては箒の2人乗りの操縦が難しいはずだと思う。ならばと、俺は再び彼女に視線を戻す。
「俺の箒に乗るといい」
俺の提案に、彼女がきょとんとする。しかし、彼女はすぐにハッとしてからずり落ちた眼鏡を慌てて直しながら返した。
「い、いえ!あの!お気遣いだけで十分です!」
「俺の操縦では不満か?」
「そ、そんなまさか!だからって、その、」
「俺のクラスは今日は飛行術の授業がなかったから寮に箒が置いたままになっている。すまないが、共に寮まで来てくれ」
「え!?」
遠慮して断られることなんぞ想定内だった俺は、彼女からの返事の内容に耳を傾ける気もなくその場から立ち上がってディアソムニア寮まで歩き始める。一方、彼女はあからさまに困惑した雰囲気を出すも、一拍置いてからあたふたしながらも俺の後ろを着いて来る気配がした。
ディアソムニア寮までの道中お互いに無言で歩き続けていたが、時折、床に躓いて転びかけたり壁にぶつかりに行ったり不思議な行動を取る彼女のことがどうしても気になってしまう。もう何度目かの彼女の危なっかしさに黙っていられなくなった俺は、ついに足を止めて彼女に声をかけた。
「大丈夫か?」
「は、はい!大丈夫です」
ずり落ちた眼鏡越しに恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる彼女に、本当に大丈夫なのかと心配になった。
それから、無事にディアソムニア寮に着き、俺は箒の後ろに彼女を乗せて飛んだ。
彼女を箒の後ろに乗せたことをきっかけに、俺は彼女と世間話程度に話す間柄になった。彼女と交流するに連れて分かったのは、どうやら彼女は眼鏡をかけていても度が合ってないらしくよく視えてないようだ。そのせいで、何もないところで彼女がよく躓いて転びそうになっている姿を見かけた。
「大丈夫か?」
「はい。大丈夫、です」
いつからか分からないが、気がつけば、彼女が躓いて転びそうになる前に俺が手を差し出して彼女の身体を支えるのが当たり前になっていた。
始めの頃は、彼女が転びそうになるのが心配で、だけど、異性にどう接して良いか分からず、恐る恐る手を差し出した。すると、彼女は決まってこれでもかというほど首を横に振っていたが、やがて、俺に根負けしたように彼女も俺の手をおずおずと取るようになった。
それでも、手を差し出して受け取る関係が当たり前になっても、転ぶ前に俺に支えられた彼女は、ずり落ちた大きなレンズの眼鏡越しに恥ずかしそうな申し訳なさそうな曖昧な表情を浮かべている。そして、次第に、彼女の行動と表情が、俺の胸の内をあたたかくしていった。理由は、分からないが。
だからなのだろう。今日も彼女が転びやしないかと俺が彼女の姿を無意識に探すのが癖になっていることに、当然、セベクが気がついた。
「おまえは、オンボロ寮の監督生と知り合いなのか?」
セベクからの問いに、俺は迷わずああと頷いた。彼女と知り合いなのは、確かな事実だ。
「知り合いだ。彼女は、俺が見ていないと危なっかしいところがあって」
俺の話を聞いたセベクは怪訝な表情を浮かべるも、そうか、とだけ返した。
彼女と関わるようになってから月日が流れた。俺は今日も彼女が転びやしないかと心配になりながら姿を探していると、聞き慣れたセベクの大きな声が耳に入った。
「危ないぞ!!!人間!!!」
「え!?ああ、ごめんね!ありがとう」
「まったく。貴様が危なっかしいばかりに」
セベクの声を辿った先に待っていたのは、どういうわけか彼女の姿だった。躓いて転びかけた彼女を支えていたのは、俺ではなく、セベクだ。
俺は、時が止まったかのようにその光景から目が離せなかった。何故?どうして?セベクが彼女を?という疑問が脳裏に過る。
だけど、一つだけ理解したのは、俺は自分で思うよりずっと寛容な心を持っていないことだった。その証拠に、セベクに彼女を見つけるきっかけを作ったあの日の自分を許せず、ただただ、拳に爪を食い込ませた。
2024.04.07
寛容|女監督生受け版ワンドロワンライ