
Bookso beautiful yet terrific.
※3年生設定です
「私ね。男らしくて綺麗な心を持ったエペルのことが、大好きだよ」
いつか、そう言って悲しそうに笑った女の子がいた。その人が誰だったかは覚えていない。ずっと前に、僕の前から消えてしまったから。
目が覚めると、見飽きた自室のベッドの上だった。時計を見ると、いつもの起床時間より5分くらい早いだけだった。僕はさっさと身支度を整えてから寮を出る。そのまま鏡舎を通り抜けては早起きした生徒達がまばらにしか活動していない校舎へと足を向けた。
夢で見た光景を追うように、僕は急ぎ足で鏡の間へ行った。普段、行事の無い日は立ち入り禁止になっているそこは当然扉は閉まっている。しかし、残念ながら鍵はかかってなかった。あのめんどくさがりの学園長が普段から戸締まりなんぞするはずないので。
鏡の間に着いた僕は、迷いもなく扉を開けて中へ入る。役目が無いので眠ったままの闇の鏡に向かって、僕は口を開いた。
「ごめんね。忘れたままで。だけど、どうしても我慢できなくて。会いに来ちゃった」
目を閉じると、2年前のまだ僕が1年生だった頃にこの闇の鏡を通って何処か遠い場所へ帰ってしまった彼女の姿が脳裏に過る。何故か、名前も素性も思い出せない。だけど、姿と声だけは、はっきりと覚えたままだった。
目を開けると、闇の鏡は相変わらず眠っていた。あの日から2年経つけれど、彼女が誰だか分からないけれど、最後に話した時の悲しそうに笑った顔は、忘れられない。
「あと、どのくらい経てば、君に会えるの?」
闇の鏡に触れても、何も反応は無い。僕の記憶もよみがえるわけでもない。
それでも僕は、あの日失くした記憶を頼りに、彼女を探している。
2024.05.12