
Bookso beautiful yet terrific.
まるで、その景色は宝石のようだった。
前日の大雨で学園の敷地を埋める大理石の上が大層大きな水たまりを作り、そこに晴れた空が鏡のように映り込んでいる。そして、彼女が持っていたカゴいっぱいのキャンディが太陽の光に反射してキラキラと輝いている。それはそれは、とても綺麗で幻想的だった。
ボクと目が合った彼女は、その場に立ち尽くすボクに対して小首を傾げてから、ボクの側にやって来る。水たまりに映る青い景色の上に立ったまま、彼女が口を開いた。
「リドル先輩も、これから帰省ですか?」
今日からサマーホリデーのため、学園の生徒達は帰省のため鏡の間へ集まっている。中には帰省の時期を来週にずらす者達もいるが、ボクもその内の1人だった。
「あ、ああ、いや。ボクは来週帰省するつもりだよ。寮長としての仕事をある程度済ませてから行きたいしね」
我に返ったボクは彼女に悟られないように平然を装って返事した。一方彼女は、ほんの少しだけきょとんとしてからも相槌を打った。
「そうなんですね。他の寮長達にもお会いしたのですが、みなさんリドル先輩と同じようなことを仰っていました。やっぱり、みなさんお忙しそうです」
眉を下げて曖昧な表情を浮かべる彼女の姿に、忙しい身である寮長達の身体を案じてくれている気がする。残念ながら、優しい彼女のことだからボク個人の心配ではなく、もれなく寮長全員なのでボクの内心は少々複雑ではあるが。
ボクは仄暗い気持ちを消し去るように小さく咳払いをしてから話題を変えた。
「そういえば、エースとデュースは今日帰省すると言っていたね」
「はい。先程、見送って来たところです」
「休みだからとハメを外さずに2人ともきちんと予習復習をしてほしいものだ」
「案外、大丈夫だと思いますよ。2人とも、根は真面目ですから」
ふふふとかわいい声で笑う彼女の振動に合わせて、彼女の持つカゴの中のキャンディが僅かに動いた。
再び、キラキラとしたキャンディが視界に入ったので、ボクは気になっていることを彼女に尋ねた。
「ところで、キミは何処かへ向かう予定だったのかい?」
ボクの質問に彼女は、ああと思い出したように反応した。
「モストロ・ラウンジに行くところだったんです」
「モストロ・ラウンジに?何故?」
「このキャンディを届けに行くので」
そう言って、彼女はカゴいっぱいのキャンディをボクに見せてきた。そこには、ペンギンの形やアザラシの形にイルカの形などの海の生き物のデザインのキャンディがある。よく見れば、カニやカメなど、様々だ。まるで、カゴの中が水族館みたいだった。
ふと、彼女がボクの顔をじっと見つめてることに気がつき、ボクも彼女と視線を合わせた。太陽の光に反射したキャンディのおかげで、宝石を飾るかのような彼女の姿にボクは息を呑んだ。一方、彼女はボクの内心なんぞ知らないので、ほんの少し考え込んでから遠慮がちに聞いてきた。
「もしよろしければ、リドル先輩も一緒にモストロ・ラウンジへ行きませんか?今日から、水族館をモチーフにしたイベントを開催するとのお話なので」
「イベント、か。もしかして、キミもその手伝いを?」
「私は、アズール先輩がミステリーショップで仕入れたキャンディのお使いを頼まれただけなので。このあとはお客さんとしてイベントに参加しようかなあと思いまして」
「そうか。ならば、せっかくのお誘いを喜んでお受けするよ」
「ありがとうございます。一緒に楽しみましょうね」
「うん。それじゃあ、行こうか」
「はい」
ボクに促されて、彼女がボクと一緒に歩幅を合わせて歩き出す。ボクは歩きながら彼女の手からカゴを受け取った。
「結構な量があるね。ここまで来るのに重くなかったかい?」
「そうでもないですよ。あ、持たせてしまってすみません」
「後輩に持たせるのは、ハートの女王も許さないからね」
「ハートの女王って、優しい方ですね」
ボクの隣で、朗らかに話しては時折柔らかく笑う彼女の姿に、ボクの顔が火照っていく。火照った顔が彼女にバレないように、カゴの中につい視線を向けると、宝石のように輝く海の生き物達と目が合った。
ちらりと、彼女の横顔を盗み見ると、彼女はモストロ・ラウンジで開催するイベント内容がどんなものなのかと予想を話しているところだった。ボクは、彼女の話に耳を傾けてから、大きく息を吸ってから吐く。それから、足を止めて彼女を呼んだ。
「もしよければ、」
突然足を止めたボクにならうように彼女も足を止めてボクを見る。相変わらず、青空が映り込んだ水たまりの上に立つ彼女は、太陽の光に反射するキャンディが無くても綺麗だった。彼女そのものが、宝石のように美しい。
ボクは、もう一度息を吸ってから口を開く。顔が火照るのも忘れて、ドキドキとうるさい心臓に構わず夢中になって伝えた。
「ボクと一緒に、水族館へ行ってくれないか?その、2人で」
人生で初めて誘ったデートというやつに、彼女が恥ずかしそうに笑って頷いたのを、ボクは一生忘れないのだろう。
2024.07.27
キャンディ|女監督生受け版ワンドロワンライ