Bookso beautiful yet terrific.

 最近、八九は不思議に思っていた。週末になると邑田と在坂に何処で何を買ってくるようパシられるのだが、ぱったりとなくなった。勿論、平日は自衛軍の訓練も一緒になるし食堂だって昼時になればみんなが顔を合わせるので二人の先輩銃と全く会わないわけではない。
 それともう一つ気になるのは、桜國泰澄の歳の離れた妹である例のお嬢様の姿を見かけないのだ。以前なら、週末になれば決まって八九の元へやってきては、あのお嬢様言葉で高飛車に何かしら命ずるのである。
 そんなこんなで、こんなに穏やかな週末をもう何回過ごしたか分からない。それは八九にとって喜ばしいことなのだろう。しかし、一回二回ではなく何度目かの週末になってもあの賑やかで騒がしい三人の顔を見ないというのは八九もそろそろ気にはなった。

「邑田と在坂、知らね?お嬢様も最近見ないし」

ある日の週末、ようやく思い腰を上げた八九は自衛軍に所属する人間に片っ端から聞いて歩いた。しかし、誰に聞いてもみんな首を横に振る。

「邑田さんと在坂さんなら非番ですので、朝から何処かへお出かけになると仰っていましたよ。すみませんが、行き先までは聞いてないです」

「お嬢様ですか?確か、ずいぶんと朝早くに上様と激しく口論している姿は見ましたが。それ以降は、分かりかねますなあ」

八九の眉間に皺が寄る。揃いも揃って何かやらかしているのではないかと頭の中に不安が募った。
 行方知らずの二人の貴銃士とお嬢様の話はいよいよ大事になりつつあった。
 夜、21時。まさかの三人とも帰宅していなかった。その事実に慌てた自衛軍や将軍の側近が急ぎ三人の捜索へ出かけて行く。それは当然八九のマスターである葛城にも声がかかった。

「事件に巻き込まれているのだとしたら、邑田殿と在坂殿は最悪の場合自力で戻って来られるかと思います。しかし、もしもお嬢様がお一人で行動なさっておいでなら」

葛城が頭を抱えた。八九は周りの人間達が血相を変えて走る姿を目で追いながら表情を曇らせる。あいつら、何やってるんだよ。と、思いながら。
 その時だった。自衛軍関係者の共同で使われる休憩室には大型のテレビがある。八九の目に誰かがつけっぱなしにしていたニュースの内容が飛び込んできた。

「突然の突風により鉄道が一時運休になっておりますが、みなさんはこれからどうされるご予定ですか?」

テレビの向こうでは、テレビ局の人間が何処かの駅前でインタビューしていた。インタビューを受けていた人物は顔を出さないが足下だけは映している。そこにあったのは女性独特の華奢な足首、そしてその女性の雰囲気とは合わない男性用の軍靴が二人分。

「ほっほっほ。これは困ったのう。どうする?お嬢様?」

「早く帰らないと兄上に叱られてしまいますわね。そうだわ!八九に迎えに来させましょう」

「在坂は賛成だ。ファミレスでオムライスを食べながら待っていよう」

インタビューの答えになっていないようなコメントが三つ並んだ。八九の顔には青筋が浮かぶ。足下だけでもその人物達の正体が八九には瞬時に分かった。

「あ、い、つ、ら!!!」

八九の叫びは自衛軍関係者の耳に届いた。その横で葛城は安堵していた。貴銃士達とお嬢様に何事もなくてよかったと思いながら。
 無事に戻ってきた三人の手には大量のお土産があった。在坂の首からは蜂蜜を舐めた黄色いくまの絵柄がかわいいポップコーンバケツを提げているし、邑田の頭には黒いネズミのカチューシャがある、お嬢様の手にはしっかりとかわいいお洋服を着せたふわふわの茶色い毛が特徴のくまのぬいぐるみを持っていた。

「兄上には18時には向こうを出なさいって言われてましたけど、ついついパレードをフィナーレまで見ちゃって」

お嬢様は悪びれる様子もなく言ってのけた。それは邑田と在坂も同じで二人は顔を見合わせて、ねー、なんて言っている。

「今回のランドも楽しかった。在坂は、来週はシーに行きたい」

「在坂が行きたいならいくらでも連れて行ってやろう」

「お嬢様も喜ぶだろうか」

「勿論。喜ぶに決まっておる」

八九は頭を抱えた。こいつら、ディズニーリゾート満喫してるじゃねえか!!!

「つーか、俺だけハブとかいじめじゃね?」

八九の言葉に三人は揃って不思議そうな顔をする。在坂は小首を傾げながら八九に返した。

「在坂も誘ったし、邑田も誘った。しかも、八九はお嬢様の誘いまで断った」

「は?」

八九の眉間に皺が寄る。すると、お嬢様は特に表情を変えないまま口を開いた。

「わたくし達が声をかけると、八九ってば決まって、イベが忙しいとかレベリングしなきゃ、とか言って逃げるんですもの。だから、わたくし達、気を遣って八九のことを放っておいてあげましたのよ」

八九は思い出した。そういえば、何週間もずっと前にそんなことを言われたような気がした。てっきり、また何かパシられると思って相手にしなかったのだ。しかも、よくよく話を聞くと、ここ数週間の週末は三人仲良くずいぶんと遊び歩いていたらしい。
 八九は深く溜息を吐いた。それから顔を上げて言ったのだった。

「来週は俺も行くから!!!絶対だからな!!!」

 この翌週、思う存分ディズニーシーを満喫して帰ってきた八九が自分と三人分の荷物を持ちながらもとっても嬉しそうだったと、後に葛城が語ったのだった。

2022.09.19