Bookso beautiful yet terrific.

 学校から帰ったお嬢様は自衛軍や幕府関係者の出迎えの挨拶をそこそこに真っ直ぐ自室へ向かった。それに気づいた八九は急ぎ足で歩くお嬢様の背中を追った。

「おいお嬢様。なんで不機嫌な顔してるんだよ」

お嬢様は口を引き結んだまま早足で進むだけ。八九は頭を掻きながら同じ方向へついて行く。やがて、お嬢様は自室の扉を開き、持っていたスクールバッグをその辺へ投げ捨ててから即座にリモコンを手に取りテレビをつけた。

「まったく。兄上ってば嫌になりますわ」

ようやく口を開いたお嬢様は不機嫌を露わにさせながらリモコンを操作する。

「もう三日も経ってしまいました」

何が?と思ってから八九はああと理解した。ちょうどその時、扉がノックされてから開かれる。そこには邑田と在坂がそれぞれお盆にお茶菓子とティーセットを乗せて現れた。

「ほっほっほ。そろそろだと思っておったぞ」

「在坂も準備万端だ」

それを聞いたお嬢様は頷いてから八九を見る。お嬢様の口元にようやく緩く弧を描いた。

「さあ!みんなで上杉様のご活躍を応援いたしますわよ!八九!すぐにHuluをつけなさい!」

八九は呆れた顔を隠しもせずにお嬢様からリモコンを受け取り、チャンネルを切り替える。というか、自分でやれよとつっこんではいけない。一方のお嬢様はテレビの前に陣取って座り、そのお嬢様の両隣に邑田と在坂も座った。

「ところでお嬢様、帰ったら真っ直ぐ上様の元へ行くよう言伝を預かっておるのだが」

「兄上なんか知りませんわ」

邑田の言葉に心底不満げな声を出すお嬢様の姿に八九は在坂の隣に座りながら耳打ちする。

「また上様と喧嘩中?」

「いつものことだ」

日曜日の夜放送中のドラマを録画し翌日学校から帰宅してから観るのがお嬢様の楽しみだった。在坂曰く、生憎その日はお嬢様が帰宅した直後に上様に公務先へ連れて行かれ、さらに翌日の放課後は習い事で予定が詰まっており、そして水曜日の今ようやくテレビにありつけたわけである。

「つまり、本当なら、これから公務へ出向くってことだよな?」

八九の呟きに在坂は首を横に振る。

「気になるなら八九がお嬢様の代わりに行けばいいと在坂は思う」

「いやいやいや!無理だからな!?」

一方お嬢様は既にHuluの配信ストーリーに早速夢中になっている。これが終わったら録画しておいた最新話を観るらしい。

「う、上杉様!なんて笑顔がお美しいのかしら!白い歯が今日も素敵ですわ」

両手で顔を覆いながら悶えるお嬢様。戦闘シーンを見て笑う邑田。持参したお茶菓子をもぐもぐ食べながら、みやびかわいいと呟いている在坂。
 八九は思った。このドラマのBlu-rayBOXと主題歌CD予約しなければ、と。
 この翌朝、何処かぼーっとした様子で登校しようとするお嬢様の姿を目撃した八九は嫌な予感がした。

「お嬢様?なんか、その、大丈夫か?」

八九に声をかけられたお嬢様はああと口を開く。それから片方の掌を自らの頬に当てながら言ったのだった。

「普段穏やかな上杉様が喧嘩する瞬間、狂気じみた笑みを浮かべるのを見て心が持っていかれてしまったの。わたくしも、あんな殿方といつか出会いたいですわ」

ぽっと頬を赤く染めるお嬢様の姿に八九は固まった。お嬢様は八九をその場に残して学校へ向かう。しばらく動けずに立ち尽くす八九にその場に居合わせた葛城が憐れみの目を向けていたのだった。

2022.09.21