
Bookso beautiful yet terrific.
驚いた私はそのままの体勢で固まった。何故ならオルトくんが両手を伸ばして私の顔を通り過ぎ後ろの壁に手をついている。ふよふよと浮く身体をいつもより少しだけ上昇させているのでオルトくんの目線は私と同じかほんの少しだけ上にある。
「さっきの話、もう一回してくれる?」
表情を変えないまま長い睫毛に縁取られた大きな目が私を射抜く。オルトくんの言葉に私は数回瞬きをする。オルトくんの言う、さっきの話とやらを思い出しながら口を開いた。
「お姫様抱っこのこと?何回聞いてもおもしろくないと思うよ」
私はつい先程オルトくんと話していた世間話の内容に眉を寄せる。人生で一度でいいから王子様にお姫様抱っこをしてもらいたいなあ、という話をエースとデュースにしたら思いっきりバカにされたのである。
「監督生さんがお姫様抱っこに憧れているのは分かったよ。それで?なんでそこでバルガス先生にお姫様抱っこしてもらっちゃうの?」
そうなのだ。この話には続きがあって、エースとデュースにバカにされているところにたまたま通りがかったバルガス先生がそれを聞き、おもむろに私のことをお姫様抱っこしてくれたのである。得意気に白い歯を見せて。
「なんでって言われても困るかな。バルガス先生も突然だったし。でも、」
当時のことを思い出した私は頬が熱くなる。火照った頬を冷ますように私は両手で頬を押さえた。
「バルガス先生が王子様ならなんて幸せなのだろう」
あのムキムキマッチョで白い歯を見せて笑うバルガス先生の姿が頭から離れられそうにない。だって、私がずっと探していた王子様像にやっと巡り合えたのだから。
「監督生さんがムキムキマッチョの王子様に憧れているのは知ってたけどさあ」
そう言った瞬間、ずいとオルトくんの顔が近づく。至近距離で見つめられる大きな目に私は夢から覚めた。
「ムキムキマッチョじゃなくても、王子様なら目の前にいるよ」
ぴくりと私の頬が動く。オルトくんの言っていることは分かる。だけど。
「次からはバルガス先生にお姫様抱っこさせないでよね」
むうっと頬を膨らませるオルトくんの姿に私は眉を寄せる。悪いけど、私にも譲れないものがある。
「私はバルガス先生みたいな人がいいの。私にとって理想の王子様だから」
それを聞いたオルトくんは不機嫌を露わにさせながら壁についていた右手を離し、私の左頬へ滑らせる。かわいらしい瞳を鋭く細めてみせた。
「理想の王子様なんか知らない。絶対に奪ってやる」
私は口を引き結んでオルトくんの目を真っ直ぐに見つめ返す。至近距離で交わるお互いの視線の中に火花が見えた。
2022.09.23