
Bookso beautiful yet terrific.
こんこんと扉を叩いてもお嬢様は返事をしてくれない。学校から帰ってきてからすぐに自室に引きこもって姿を見せてくれないと自衛軍の人間や幕府関係者がみんな心配そうな表情を浮かべていた。
「お嬢様、そろそろ夕飯だけど。その、大丈夫、か?」
遠慮がちに声をかけてみるがやっぱり返事はない。俺は踵を返す。とりあえず、食べるか分からないが食事を部屋まで運ぶことにした。
その時だ。ようやく扉が開かれる。部屋の中から俺を見たお嬢様の顔に気がついた俺はぎょっとした。
「お嬢様!?何があった!?」
お嬢様の顔が涙でぐちゃぐちゃだった。いつもは高飛車に命じるとっても気が強い人だ。泣いたところなんぞ一度も見たことがない。だから俺はお嬢様の両肩をつい両手で掴んだ。だってあのお嬢様が泣いてるんだぞ!?絶対に重大な事件があったに決まってる!!!
「八九、うるさいですわ。兄上に言いつけてやりますわよ」
何故俺がお嬢様に怒られたっぽくなっているか分からないが、そこはどうでもいい。
「何があった!?学校で何かあったのか!?何されたんだ!?俺が今すぐそいつら全員始末してやる!!!」
「至近距離で大声出さないでちょうだい」
お嬢様がそっと俺の胸板を押す。お嬢様の両肩から自分の両手を離すはめになったけど、まだ気が済まない俺はお嬢様の顔を覗き込んだ。
「でも、俺。マジでお嬢様のことが、その、心配だから」
ぴくりと反応したお嬢様が顔を上げて俺を見る。手に握りしめていたハンカチで涙を拭きながらお嬢様はすっごく小さな声で呟いた。
「上杉様が」
ウエスギサマ?そいつがお嬢様を虐めた犯人かと俺の脳が瞬時に反応する。しかし、物凄い勢いで脳内がぐるぐる回る。そして、そのウエスギサマという単語をつい最近も聞いたことを思い出した。
「まさかとは思うけど、昨日録画したドラマの最終回観てた?」
俺の質問にお嬢様は瞼をハンカチに押しつけながら小さく頷く。それからか細い声で呟いた。
「上杉様がご無事でよかったですわ。上杉様にもしものことがあったら、わたくし、どうしようかと」
いつもと別人のようにめそめそするお嬢様の姿に俺は内心溜息を吐いた。
「えーと。その。落ちついたらでいいけど、夕飯食べようぜ。どうせ邑田と在坂も一緒に食べるだろうし」
「分かりましたわ。でも、もう少しだけ待って」
ぐすんと鼻を鳴らしたお嬢様が扉を大きく開ける。それからお嬢様が俺に部屋に入るよう促すので俺も遠慮せずお嬢様の部屋で待たせてもらうことにした。
しかし、お嬢様の部屋に足を踏み入れてから気づく。そこには我が物顔でくつろぐ男達の姿があった。
「八九。お嬢様の肩に不用意に触れるとは躾が必要みたいのよう」
「みやび先生に在坂は萌えた。在坂はみやび先生の似顔絵入りラテアートを八九に要求する」
「はあ!?おまえらお嬢様と一緒だったの!?」
至極当然と言わんばかりの邑田と在坂の姿に俺は発狂した。つーか、また俺だけハブじゃん!!!
「これからHuluの配信ストーリーを観ますの。夕食はそのあとにしてちょうだい」
その場に立ち尽くす俺にお嬢様はまだ残る涙声でそう言ってのけたのだった。
翌日から、また上の空状態のお嬢様の姿があった。
「わたくしも上杉様と一緒に手遊びをしたいですわ」
はあと深い溜息を吐きながら掌を頬に当てるお嬢様を俺は複雑な気持ちで眺めることしかできなかった。
2022.09.26