
Bookso beautiful yet terrific.
数ある図書室の席の一つに座りながらデュースは頭を抱えていた。数学がさっぱり分からないと数字と方程式が無数に示されている教科書を見ては唸るを繰り返している。解決方法が見出せないまま図書室に並ぶ本棚から引っ張り出したいくつかの参考書のページを捲るが、残念ながら意味はない。
その時、デュースの目の前の席にすっと監督生が座る。監督生は持っていた数冊の本を机の上に置いた。デュースが顔を上げると監督生と目が合う。監督生はデュースが開いまま進んでいない数学のノートを見つけた。今更隠すわけではないけど、問題が解けないの?とバカにされるだろうと思ったデュースは顔を顰める。しかし、監督生は何も言わずノートの上に放り出されたデュースのシャープペンシルを持って隅っこの方に小さく文字を書いた。
え?と思いながらその文字をデュースは目で追う。丁寧で綺麗な筆跡で書かれていく数式にデュースはこれがたった今まで自分が分からずに困っていたものだと理解した。
「お願いがあるの」
数式を書き終えてからシャープペンシルを置いた監督生が少しだけ照れくさそうに苦笑いを浮かべる。
「魔法史、ちょっと分からなくて。教えてくれる?」
魔法史はこのツイステッドワンダーランドの歴史だ。デュースにすれば数ある方程式を当て嵌めて計算する数学よりずっと難易度が下がる。だけど、監督生にしてみれば異世界共通の数学よりこの世界にしかない歴史を一から覚えなければならないので難易度が物凄く上がる。
「僕でよければ」
デュースの顔にようやく光が差す。監督生が頬を緩ませながら持ってきた歴史書を手で示す。それを見ながらデュースは監督生に書いてもらった数式の他にも数ある方程式の当て嵌め方を尋ねていく。小さな声でひそひそと話しては楽しそうに頬を緩ませる二人の姿を図書室のエントランスから見つけた人物がいた。
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エースはトレイン先生に捕まり明日の魔法史の授業で使う資料を図書室から職員室に運んでくるよう頼まれていた。すっごく嫌だしめんどくさいし断りたかったけれどあのトレイン先生からの頼みを断ると後が怖い気がしたので仕方なく引き受けるしかなかった。
内心ぶつくさと文句を言いながら図書室のエントランスに足を踏み入れる。すると、端っこの席に向かい合って座るデュースと監督生の姿を見つけた。二人ともノートや参考書を用意しているので勉強会してることは明らかだった。なんだよあいつら、真面目に勉強なんかしちゃってさあ。と、揶揄ってやろうとエースは二人がいる席へ足を向ける。しかし、デュースと監督生のそれぞれの表情を見た瞬間、エースは足を止めた。
ひそひそ声で話しては二人揃って仲良さげに目を細めている。図書室という周りに気遣う空間にいるため声を落とすせいでデュースと監督生の距離がずいぶんと近く見えた。エースの心に黒い靄が広がっていく。再び足を動かしたエースは早足でデュースと監督生がいる席に行く。側にやって来たエースに気づいた二人は揃って顔を上げた。
「ずいぶんと仲良いじゃん。二人きりで勉強会?」
棘がある声音だとエース自身も気がついていた。だけど、必死に取り繕うともできそうにない。嫉妬に歪んだ気持ちが表情に出てないことを祈るしかない。
「先にデュースがいて、私があとから来たの。エースも勉強?」
監督生の言葉にどうせそんなことだろうと思ってはいた。それでも、エースの知らないところでデュースと監督生が二人一緒にいるのは気分が悪い。
「俺はトレイン先生のお使い」
監督生に返しながらエースはデュースの顔をちらりと見る。デュースは特に表情を変えずそっかと相槌を打っていた。ほら、デュースは無自覚のままだ。
「エースも一緒にやらないか?魔法解析学ならおまえ得意だろ。僕達に教えてくれると助かる」
そうやって監督生との二人きりの空間を簡単に壊せるデュースが心底憎い。それでもエースは内心を顔に出さないように表面上はいつも通りを装った。
「仕方ねえな。このエース様がありがたーく教えてやるよ!とりあえず、お使い終わらせてくるわ」
デュース本人は気づいてないが監督生を見るその瞳は親友を見るものではない。それはエースも同じだった。ただ、エース自身はその視線の正体に気づいている。
なんでこうなっちゃったかなあ。二人がいる席から離れてからエースは盛大に溜息を吐いのだった。
2022.09.30