Bookso beautiful yet terrific.

 マレウスが校舎の中を散歩しているとそれはそれは大きな声で叫ぶように監督生を呼ぶセベクの声が聞こえた。監督生の一大事だと悟ったマレウスは魔法を使い一瞬で中庭に向かう。赤く色付くりんごの木の下で、監督生は食べかけのりんごを手にしたまま瞼を閉じていた。

「これは一体?」

「わ、わかさまあ!!!」

明らかに狼狽た様子のセベクは監督生を腕に抱き起こしながらマレウスを呼ぶ。それからセベクは監督生の身体を芝生の上に放り投げてマレウスの前に平伏した。

「申し訳ございません!!!このセベク!!!認めたくはないですが若様の大切な友人と仰る人間風情を!!!じゃなくて!!!監督生を守ることができず反省してもしたりません!!!」

「まずは落ちつけ。一体、何があったというのだ?」

セベクは恐る恐る顔を上げる。それから悲しげに目を伏せた。

「そこの木になっていたりんごが勝手に動いて近くにいた監督生の口の中に突っ込んで来たんです。そのせいで、不覚にもりんごを齧ってしまった監督生が急に崩れ落ちるように倒れて。僕にも、何が起きたのか分からず」

監督生の顔が苦しそうに歪む。これはもしや毒りんごを食べたのでは?とマレウスの背中に冷や汗が伝う。
 一方、セベクは倒れた監督生に困惑しつつもセベクにはもう一つ気がかりなことがあった。
 まさかとは思うが、監督生が目を開けるには王子様のキスが必要という展開ではあるまいな!?
 もしそうならば、この学園にいる王子様ってやつがセベクの知る限り二人いる。一人は夕焼けの草原の第二王子レオナ・キングスカラー。そしてもう一人はセベクの目の前にいる茨の谷の次期当主マレウス・ドラコニアだ。セベクにしてみれば監督生にキスをするのならレオナより自分が敬愛するマレウスの方が良いと思っている。しかし、それは必然的に監督生がマレウスのプリンセスになるという流れになっていく。ゆくゆくは、茨の谷の当主とその奥方になるのだろう。
 いやいやいや!!!とセベクは頭を抱える。監督生はセベクにとって友人だ。マレウスにとっても友人だと聞いているが、マレウスと監督生が友人以上の関係になってしまうと思うとセベクの胸に複雑な心境が渦巻いた。

「いつの時代も眠る人間を起こすのは王族からの口付けだと見聞きしてきた。こうなっては仕方あるまい。僕が、人の子に祝福を授けよう」

 セベクの胸中を知らないマレウスは眠り続ける監督生の側にすっと近づき膝を折る。それに気づいたセベクはぎょっとしてから慌てて監督生を腕に抱いた。

「若様!!!落ちつきましょう!!!きっと何か別の方法があるはずです!!!」

「僕がキスした方が早い。そこを退け、セベク」

「で、できません!!!!!」

目線を鋭くするマレウスと目をぎゅっと瞑って首を横に振るセベク。二人の間の空気が緊迫した時だった。
 ぱちりと監督生の瞼が開く。がばっと起き上がった監督生は自らの手に握りしめる食べかけのりんごを見つめから思いっきり嫌な表情を浮かべた。

「何これすっごく苦い!!!苦いりんごなんてこの世にあるの!?」

 セベクは起き上がった監督生の両肩を掴んでがくがく揺さぶった。その目には涙が滲んでいる。

「き、貴様あ!!!よかった!!!本当によかったぞ!!!!!」

「え?ごめん何?というか揺らさないでよセベク」

その光景を眺めていたマレウスはふっと笑う。それから状況が読めない監督生に告げたのだった。

「あともう少しだったのに、残念だな。まあ、良い。おまえが無事なら」

「ツノ太郎まで。これって一体どんな状況なの?」

 困惑する監督生をからかうように悪戯好きの毒りんごは監督生の手の中でケケケと小さく笑った。

2022.10.07