
Bookso beautiful yet terrific.
時刻は日付を跨いだ10月9日午前1時。少しだけ厚手のコートを着てそーっと外に出た。オンボロ寮の庭にある高台に立ってから空を見上げると幾千もの星で溢れていた。季節はすっかり秋に染まるので、吐いた息が澄んだ空気に溶ける。
しばらくそのまま肉眼で星空を眺めてから、今度は屈んで昼間にあらかじめ用意しておいた望遠鏡を覗く。この世界の星の位置は不思議なことに元の世界と変わらないようだ。幼い頃、図鑑と星空を睨めっこしながら望遠鏡を覗いた日々が懐かしい。
不意に、私の背後からかさりと枯れた葉を踏む音が聞こえた。物音を立てないように部屋を出てきたつもりだったけれど、もしかしたらそのせいで私の隣の部屋で眠るグリムを起こしてしまったのだろう。望遠鏡から顔を離して後ろを振り向くとそこには予想外の人物が立っていた。
「今日は天気が良いのでさぞかし綺麗でしょうね」
すっと私の隣に座ったアズール先輩は肉眼で星空を見上げた。私とは違い、結構冷える真夜中だというのにアズール先輩の上着はカーディガン一枚だけだった。
「望遠鏡、覗いてみますか?」
「ええ、ぜひ。お言葉に甘えて」
すぐに望遠鏡を覗いたアズール先輩の横顔を少しだけ見てから、私は顔を上げて肉眼で星空を眺める。秋独特の澄んだ空気のおかげで星が今にも地上へ降り注ぐような錯覚した。
「ところで、尋ねないんですか?僕がここに来た理由を」
アズール先輩の声がほんの少しだけ弾んだ。私は特に考えずアズール先輩に視線を向けた。アズール先輩はまだ望遠鏡を覗いたままでいる。
「寒いところには慣れていると以前仰ってましたけど、薄着で大丈夫なんですか?」
「僕の質問の答えになっていませんよ」
「だって、アズール先輩がこんな時間に出歩いてても特に驚きません。お肌のゴールデンタイムを気にするヴィル先輩だったら熱でもあるのかと心配になりますが」
「それはそれであなたにとっての僕の扱いが気になるところですね」
望遠鏡からこちらに視線を向けたアズール先輩の眉間の皺が寄る。少し不機嫌を露わにさせた表情に怒らせたかなあと思う。だけど、正直のところ真夜中にアズール先輩に出会したからといって気になることもないし。とりあえず、何と返せばいいか考えを巡らせようとしたちょうどその時だ。
私達の頭上にきらりと何かが光った。私もアズール先輩もハッとして空を見上げる。すると幾つもの流れ星がそこにあった。
「う、嘘!?流星群!?」
私が思わず声をあげるとアズール先輩もずいぶんと驚いたように口を開いた。
「まさか、こんなことって」
信じられないと言わんばかりのアズール先輩の隣で、私は今日の流星群についてニュースで見た内容を思い出した。
「りゅう座流星群が現れるのが今日辺りかなとは思いましたけど」
アズール先輩もまたりゅう座流星群についての情報を耳にしていたらしく私に返した。
「満月前で悪条件だったせいで突発出現の予想もなかったはずです。しかし、これほどの天体が観測できるとは」
突然の出来事に私もアズール先輩も声が上ずっている。お互いの顔を見なくても高揚しているのは明らかだった。
しばらくりゅう座流星群を二人して眺める。たまにわあとか凄いとかどちらも無意識に口にしていた。
不意に、手がぶつかる。星空の明かりだけが辺りを照らすので私の手が何にぶつかったのか分からない。だけど、と思いながら隣にいるアズール先輩を見る。すると、アズール先輩もこちらを見たところだった。
「いや、あの、」
アズール先輩が眼鏡のフレームの位置を指で直す。それからアズール先輩はやんわりと頬を緩めてみせる。
「10月22日にもオリオン座流星群が出現するようなんです。だからまた、この場所で僕と一緒に天体観測しませんか?」
私の頬が僅かに熱くなる。それは人間の体温と外の気温の差のせいか分からない。もしかしたら、今頭上に溢れているりゅう座流星群を見た高揚感のせいかもしれない。
「望遠鏡、用意しておきますね」
私もアズール先輩にならって頬を緩める。私の返事を聞いたアズール先輩は自惚れかもしれないが嬉しそうだった。
「あ。でも、次来る時は厚着してきてください。きっと今日よりも寒くなりますよ」
「僕は人魚ですので寒さには慣れていますが。もしもの場合は、」
そこまで言ったアズール先輩は自分の右手を見る。だけどすぐに、緩く横に首を振った。
「分かりました。念のため、コートを着て来ます。そうだ。あたたかいハーブティーも持参しましょう」
「それじゃあ、私はブランケットも用意しておきますね」
アズール先輩の目がやんわりと細められる。
それから私達は再び星空を見上げた。まだしばらくは天体観測をやめられそうにない。
2022.10.09
○○の秋|女監督生受け版ワンドロワンライ