Bookso beautiful yet terrific.

 監督生は息を切らせながら放課後の廊下を走っていた。全速力で走る可憐な女の子の足音に学園の男どもはつい振り向いてしまった。しかし、当の監督生は誰とも目を合わさずそのままの勢いで自分が在籍する1-Aの教室へ飛び込む。そこにはおしゃべりに興じていた親友達の姿があった。

「グリム!!!早く帰るよ!!!」

普段大声を出さない監督生が腹の底から声を出してグリムを呼ぶ。一方グリムはめんどくさそうな表情を浮かべながら監督生の鞄を差し出した。

「はいはい。分かってるんだゾ」

監督生はつかつかとグリムに近づき、鞄とグリムを両腕に抱きしめる。それから即座にクラスメイト達に背を向けて帰ろうとした。しかし、それをエースが許さない。

「おまえ何急いでるの?何事?」

エースに呼び止められた監督生がくるりと振り向く。しかし、そこには普段温厚な表情とは違い鬼の形相をした監督生がいた。

「え!?怖っ!?俺変なこと言った!?」

その監督生の表情にエースだけではなくクラスメイト達も驚き引いていた。そんなエース達の様子にグリムはやれやれと溜息を吐いている。しかし監督生はエース達やグリムのことなんぞお構いなしに教室の壁に設置してある時計を見た。

「早くしないと遅刻しちゃう」

監督生の台詞はまるでお茶会に急ぐ白兎のようだった。エースはますます意味が分からず首を傾げる。すると、今までだんまりだったデュースがようやく口を開いた。

「もしかして、監督生も観るのか?」

は?とエースを始めとするクラスメイト達の声が重なる。主語もないデュースの問いかけにその場にいる人間には理解できなかった。監督生とグリムを除いて。

「もしかして、デュースも?」

「僕はずっとこの日を待ち侘びていたからな」

監督生の表情がぱあっと明るくなった。グリムと鞄を抱きしめたまま監督生が大股でデュースに近づく。一方デュースも顔を高揚させながら監督生との距離を詰めた。

「いよいよ今夜9時から始まるのね!」

「まさか初代相棒が帰ってくるだなんて思いもしなかった!」

「神戸くんもカイトくんも冠城くんも好きだけど薫ちゃんのことがずっと忘れられなかったの!」

「ああ!僕もだ!いつかきっと戻ってくる!そう願ってきた!」

こんなことってある!?と重なる監督生とデュースの興奮した声にクラスメイト達が首を傾げた。

「で?おまえ等は何の話してるわけえ?」

エースの呆れた声に監督生とデュースが同時に振り向いた。

「水曜日の夜9時から放送開始のシーズン21のバディに決まってるじゃん!!!」

綺麗に重なる監督生とデュースの言葉に、監督生の腕の中にいるグリムがあからさまに顔を顰めた。

「だからこいつ、夜9時までに宿題も夕食も風呂も済ませてからテレビの前で正座待機するつもりなんだゾ」

というわけで、とグリムは自分を抱えている監督生の腕をぺしぺし叩く。

「おい子分!さっさと帰るゾ!時間に間に合わなかったってあとで恨みごとつらつら言われても困るからな!!!」

「そうだね!行こう!」

監督生はグリムと鞄を抱きしめながらクラスメイトや親友達に挨拶してダッシュで帰って行った。残されたエースは察する。
 なるほど。だから監督生を呼び止めた時、鬼の形相だったのかあ。ここで道草食ったせいでスケジュール狂ったなんてことがあったら、監督生が暴れ回りそうだわ。
 エースは呆れながらデュースに振り向く。

「それじゃあ、俺達も帰ろぜ」

「ああ!そうしよう!今すぐ寮に行こう!!!」

そこには瞳をぎらつかせるデュースの姿があった。エースはそれはそれはどん引いたのだった。おまえもかよ、と思いながら。

2022.10.12