Bookso beautiful yet terrific.

 彼女は守るべき存在だと思っていた。ボクと違い魔力を持たず異世界から招かれてしまったかわいそうな人間。きっとハートの女王ならそんなか弱い存在を守りそして愛でるのだろう。
 しかし、それはボクの思い込みに過ぎなかった。彼女は360度男に囲まれた世界で怯えることもましてや媚を売ることもしなかった。先輩達に敬意を払い、同級生には対等に、相棒の魔獣には飴と鞭を使い分け、しっかりと前を向いて生きている。
 それが時にボクを苦しめた。誠心誠意相手ときちんと向き合う彼女の姿にボクが手を差し出す隙を感じないからだ。
 ところが、今まさにボクの目の前にいる彼女の姿はどうだろうか。鏡の間で、何も言葉を発さない闇の鏡を前にして立つ彼女の背中からは感情が読めない。

「ここは普段は立ち入り禁止の場所だよ」

たまたま鏡の間の前の廊下を通ったら彼女の姿があった。彼女は闇の鏡に手で触れながら静かにそこにいる。

「ボクの言葉を無視するのかい?いい度胸がおありだね」

ボクは黙ったまま突っ立っている彼女の側へ足を向ける。彼女は相変わらず反応をしない。

「ルール違反を見逃すわけにはいかない。ただ、君のことだから何か事情があるのだろう。話を聞こうか」

すっと彼女の手が闇の鏡から離れた。くるりと彼女が振り向き、丁寧にお辞儀をする。

「すみません。勝手に入ってしまって。興味本位だったんです」

顔を上げた彼女がボクに視線を合わせる。僅かに崩した表情にボクは腕を組んだ。

「君が?興味本位で?にわかには信じがたいが」

「私は優等生というわけでもないですから」

あまり表情を変えずに彼女が言ってのけた。それから再びお辞儀をした彼女はボクの横をすり抜けて鏡の間を出て行こうとする。そこでボクはようやく違和感に気がついた。
 鏡の間を出る直前の彼女の腕を咄嗟に掴んだ。ボクのせいで動きを止めた彼女は立ち尽くす。いつもは真っ直ぐ前を向くその背中がずいぶんと頼りないものに見えた。

「何かあったのかい?」

その質問は本来すべきではないのだろうと言ってから気づく。だいたい、元の世界への帰り道が分からない彼女に向かって言っていい言葉ではない。

「いや、その。すまない」

何に対して謝っているのか分からないが口をついて出たのがそれだった。彼女は大きく息を吸ってから短く吐く。それからようやくボクに振り向いてから頬を緩めてみせた。

「心配してくださってありがとうございます。本当に、何もありませんよ」

やんわりとボクの手を外してから彼女が今度こそ鏡の間から出て行った。残されたボクは彼女の瞳の奥に揺らいだ何かを思い出して瞼を伏せる。頑なに手を取らず独りでいようとする彼女の姿にボクは最初に感じていた考えが正解だったことに気がついた。

「君は、ボクが守ってあげなければならないね」

 いつの日か彼女が帰り道を歩くそれまでは、何度でも救いの手を差し出そうと思った。その理由が彼女がかわいそうな人間だからではなく、何事にも折れず真っ直ぐ前を向く彼女の姿に恋をしているからだとボクが気づくのはまだまだ先の話。

2022.10.15
守りたい|女監督生受け版ワンドロワンライ