
Bookso beautiful yet terrific.
お昼休みのことだった。監督生はエースとデュースとグリムと談笑しながら廊下を歩いていた。グリムは小さな身体で人で溢れる廊下を器用に進み、エースとデュースも時折誰かと肩がぶつかりつつも軽く謝っては歩く。そんな二人と一匹の後ろを監督生がついて行った。それはいつも通りの日常の光景だった。
ところが、だ。監督生の背後から猫の鳴き声が聞こえる。その場に居合わせた生徒達も、当然監督生とマブ二人と魔獣も騒々しい鳴き声に振り向いた。その猫はトレインの飼い猫のルチウスだった。ルチウスは威嚇するように喉を鳴らし、その口には見覚えのあるふわっふわの毛皮のコートを咥えている。そのルチウスの後ろから般若の形相で物凄い早さで追いかけて来たコートの持ち主であるクルーウェルの姿に生徒達が騒ついた。
ルチウスはコートを咥えたまま廊下に突っ立ったままでいる監督生に向かって飛びかかる。咄嗟にルチウスとコートを腕の中に抱きとめた監督生に対し、クルーウェルは怖い顔のまま両手を広げて監督生の身体を長い両腕の中に閉じ込めた。
「やっと捕まえたぞ!!!俺のコートを返してもらうからな!!!」
そう高々とした声で言うクルーウェルの姿に監督生の腕の中にいるルチウスはコートを口から離し不満そうに鳴き声をあげた。
しかし、監督生は目を丸くするしかない。監督生の腕の中にはルチウスとクルーウェルのコート、そして自らの身体はクルーウェルの腕の中だ。
「まったく。トレイン先生の飼い猫だから魔法を使うわけにもいかないし」
ぶつぶつと文句を言っていたクルーウェルだったが、廊下に居合わせた生徒達の視線に気づき腕の中を見る。そこでようやく事態に気がついたクルーウェルは慌てて監督生から飛び退いた。
しかし、時は既に遅かった。クルーウェルの背後からわざとらしい盛大な咳払いが聞こえ、クルーウェルが心底嫌そうな表情を浮かべて振り向く。そこには思いっきり顔を顰めたトレインの姿があった。
「クルーウェル先生。教え子に何をしているのかご説明いただこうか?」
「いや、これは、」
言い淀むクルーウェルだったが、ハッとしてすぐにトレインを睨み返す。それから監督生の腕の中におとなしくいるルチウスと自らのコートを指差して早口で捲し立てた。
「そもそも俺のコートをトレイン先生の猫が悪戯に持ち出したせいでこうなったんです!!!」
「とはいえ、生徒を抱きしめる理由にはならないだろう」
「だから!!!」
やれやれといった感じでトレインが足を進めて監督生の元へ行く。監督生からかわいい愛猫を受け取ったトレインが、ついでにクルーウェルのコートも手に取り、少しだけ雑にクルーウェルに返す。それからトレインは監督生の肩を軽く叩き眉を寄せた。
「怖かっただろう。もう大丈夫だ、心配ない。そうだ、休み時間はまだあるな。食堂でお茶をしよう。さあ、行こうか」
今度は監督生の背中を優しく叩いて先を歩くよう促すトレインの姿は、まるで、しつこいナンパ男に引っかかった娘を助け出し労る父親のようだった。その光景をコートを掴んだまま眺めていたクルーウェルは肩をわなわな震わせながら大股で近づきトレインに抗議した。
「トレイン先生こそ生徒に気安く触りすぎでは!?」
「私はあなたと違って下心はない」
「俺もない!!!」
自分を挟んで言い合う二人の教師の姿に監督生は困惑しながらマブ達と魔獣に助けを求めるように見る。そんな監督生の視線をマブ達と魔獣だけではなく廊下に居合わせた生徒達もぐるんと大袈裟に首を動かして目を逸らしたのだった。
2022.10.18