Bookso beautiful yet terrific.

 錬金術の授業が終わった監督生は実験着のまま実験室を出る。デュースはクルーウェル先生に授業のことで質問があって残り、一方エースとグリムは授業中に少々おふざけが過ぎたので強制的に居残りである。そのため監督生は一人教室へ戻っていた。
 教科書と筆箱を両手で抱きしめながら歩き、運動場に面した外廊下へ差し掛かったところで先輩二人に出会した。こちらも体力育成の授業終わりで教室に戻ろうとしていたジャミルが監督生の姿を見つけて足を止める。さらにそこに飛行術の授業を終えたラギーが箒を肩に乗せながら二人の前で足を止める。

「錬金術か」

ジャミルの短い一言に監督生が返事する。ラギーは怠そうに欠伸を溢してから先に足を動かした。

「そういえば1年生の頃、監督生くんが今やってる範囲に苦しめられたッスね」

ラギーにならって監督生とジャミルも足を動かす。全く違和感なく会話を始めて一緒に歩く三人の姿に周りにいた生徒達が驚いたように振り向く。これがラギーとアズールなら何か悪巧みしているのでは?そこに監督生が巻き込まれたのでは?と勘繰ってしまうが、ラギーと一緒にいるのは何事にも卒なく熟すジャミルだ。何この組み合わせ?と思われても仕方がないだろう。

「確かに俺も苦戦したな。君はどうだ?何処か躓いてはないか?」

 そんなことを周りに思われているなんぞ気づいていない三人は会話を続けている。ジャミルの気遣いに監督生はうーんと首を捻ってから考え込んだ。
 真剣に考え込む監督生の姿にジャミルの目尻が僅かに下がる。素直な反応についカリムを連想したがすぐに打ち消した。思えばこの時期のカリムも錬金術の範囲に頭を悩まされ、ジャミルが一生懸命根気強く教え続けたのだ。それを思い出したジャミルは一瞬だけ顔を顰めた。
 ラギーは箒を肩に乗せたまま黙り込む監督生に振り向く。しかし、ラギーの視線は監督生を見つめるジャミルの姿を捉えた。

「まあ、分からない箇所を思い出したらサバナクローにでも来たらいいッスよ。レオナさんが意外と勉強を見てくれるんで」

さらりと言ってのけるラギーを今度はジャミルが見る。ジャミルの眉間が僅かに寄った。

「そもそも約束もしていないのに突然レオナ先輩のところに押しかけても相手も困るだろう。それならば、俺のところに来ればいい。どうせいつでもカリムの勉強を見てやっているので一人くらい増えても大したことないからな」

ラギーの唇の端が上がる。その表情は明らかに挑発しているものだった。

「それこそジャミルくんが良くてもスカラビア寮生達が困るッスよね?副寮長を訪ねて監督生くんが毎日のようにやって来たらそちらの寮長さんが毎度宴会をやりたがるだろうし」

ぴくりとジャミルの頬がひくつく。気づけばジャミルとラギーは足を止めてお互いに視線を向けていた。
 監督生は立ち止まる先輩二人の姿に自分も足を止めるしかなかった。いつもの調子でシシッと笑みを浮かべるラギーとあまり表情を変えず視線だけをラギーに向けるジャミルの姿に何故か不穏な空気を感じた監督生は口を引き結ぶ。なんか二人とも喧嘩してる?という疑問を口にするわけにはいかず監督生の内心はおろおろしていた。
 微妙な空気が流れたちょうどその時、いつもの明るいカリムの声が遠くからジャミルを呼んだ。そして別の場所からやって来たレオナもラギーを呼ぶ。その瞬間、空気が和らいだ。

「どちらを選ぶかは君に任せる」

そう言ったジャミルは監督生に視線を向けてからカリムの方へ足早に去る。一方のラギーも歯を見せて笑ってから言ったのだった。

「監督生くんの好きにしていいッスよ。それじゃあ、どうなるか楽しみにしてるッスね」

ラギーもレオナの方へ行ってしまった。残された監督生は数回瞬きしてから首を傾げたのだった。
 というか、サバナクローかスカラビアで勉強会するのは確定なの?と思いながら。

2022.10.18