Bookso beautiful yet terrific.

 バスケットボールが体育館の床に落ちる音が響いた。ボールは何度かその場に跳ねたあと、ころころと何処かへ転がっていく。やがて、ボールの動きがぴたりと止まる。それなのに、体育館の中にはボールと床がぶつかる音が残っていた。
 ボールを床に落とした張本人は体育館にやって来た私の顔を見て気まずそうに目を逸らす。その姿を横目に私は今は静かにおとなしくしているボールを拾い上げた。

「もうすぐ最終下校時刻だよ」

ボールを持ったままエースに近づくと、エースがきゅっと口を引き結ぶ。一拍置き、短く息を吐いてからエースはいつものようにふざけたように振る舞ってみせた。

「やっべーじゃん。早く戻らないとリドル寮長にめっちゃくちゃ絞られるわ」

エースの声が体育館の中に響く。エースは私の手からボールを奪うと倉庫に片付ける。

「もういいや、運動着のままで。とりあえず、さっさと帰ろうぜ」

そう言ったエースは体育館の端っこに置いてあった自分の荷物を掴んで足早に戸締まりを確認してから体育館を出る。ガシャンと大きな音を立てて閉まった体育館の入口の扉に二人で背を向けて帰路を歩き出した。
 いつも色んなことをぺらぺらと話すエースが、やけに静かだった。もうすっかり暗くなった帰り道を二人分の足音だけが響く。ふと、エースの横顔を盗み見るとエースの表情には焦りが滲み出ていた。
 デュースから聞いた話だと、バスケ部はもうすぐ開催する秋の大会に出場するらしい。そして、そのスタメンを選ぶ選考会が月末にあるようだ。エースは、ぜんっぜん余裕で選ばれるわ!なんて言っているけれど、内心ではスタメンに選ばれるのか不安で仕方がなかった。そのために部活動の時間が終わっても一人遅くまで練習に励んでいる。もっとも、そんな弱った姿を私とグリムやデュースすらにもエースは見せようとしない。どうせ、努力する俺ってかっこわるいとでも思っているのだろう。
 それならば、私にできることは何だろうか。エースはずけずけと踏み込むことを望んではいない。だけど、がちがちに緊張している親友を放っておこうとも思わない。余計なことをしないし言わない方がいいと分かってはいる。

「ねえ、エース」

だから、私にできる精一杯のことがこれだった。両手を伸ばしてエースの頭をわしゃわしゃと撫でる。嫌がるエースを無視してエースの髪の毛が乱れても撫で続けた。

「おまえ!?何してるの!?」

抗議するように私に言ってくるエースを見て私は歯を見せて笑ってやった。

「いつもお疲れ様」

エースの動きがぴたりと止まる。エースは視線を彷徨わせたあと、お返しにくしゃりと私の頭を軽く撫でた。

「サンキュ。俺、頑張るから」

そう言ったエースの声は照れているのかとても小さなものだった。だけど、私の耳にはエースの言葉がちゃんと残ったままだ。

2022.10.22
残響|女監督生受け版ワンドロワンライ