Bookso beautiful yet terrific.

 彼女の視線が今日も誰かへ向けられていた。時折薔薇の傷口から伸びる蔦は僕以外の古銃によって治療され、僕以外の現代銃によって悪化させられる。そして気づけば僕の視線の先からいなくなったと思えば、彼女は僕の知らないところで誰かと共に任務へ出かけ、あるいは誰かの部屋へ行き銃の手入れをしている。
 それが、たまらなく嫌だった。彼女の優しい声音も、あたたかい眼差しも、ほんの僅かに緩む頬も、熱を孕んだ指先も、全てが僕だけに向けられたらいいのにと思っている。
 それなのに、この感情を彼女にぶつけることができないのは僕が臆病だからだ。彼女は一息つきたい時には必ず僕の部屋を訪ねて来る。臆病者の僕は彼女の止まり木としての役割に甘んじて満足していた。

「最近、課題の内容が難しく感じる。そりゃあ、三年生にもなれば当たり前なのだろうけど」

 今日も僕の部屋を訪ねた彼女は、僕が淹れたアールグレイティーの入ったカップを持ちながら苦笑いを浮かべた。一口、また一口とカップに口をつけては他愛ない話をする。元々の性分なのか、くるくると表情が変わるわけではないがそれでも僕は彼女の話に相槌を打ちながら耳を傾けている。

「下級生を見ているとさ、私が士官学校に入学したばかりの頃を思い出して懐かしくなるの。あの頃、右も左も分からず毎日必死だった」

僅かに目尻が下がった。彼女の言葉が止まる。何かを頭の中に浮かべる彼女の姿に僕は口を開こうとしてやめた。代わりに、僕は手近な場所にあるティーポットを手に取った。

「マスター。お代わりをどうぞ」

まだ中身が残るカップにアールグレイティーを注ぐ。
 素直に、僕だけの側にいてほしいと言えないまま。

2022.10.29