
Bookso beautiful yet terrific.
監督生が振り向くと突然腕を引っ張られて廊下の壁に背中を打ちつけた。軽い痛みに眉を寄せながら見上げるとケイトが監督生の顔の横に手をついて見下ろしている。その表情は逆光になっているので分かりづらい。
「こんにちは、ケイト先輩。これから部活ですか?」
あまりにも近いケイトとの距離に対し監督生の口から出た言葉は場違いなものだった。当然、ケイトの表情は動かない。この場所が数ある魔法士の卵が在籍するナイトレイブンカレッジの校舎の中の一つの廊下だというのにこういう時に限って残念ながら人通りが全く無い。遠くで少しでも誰かの気配を感じたら思いっきり叫ぼうと監督生が決意していた時だった。
すっと音もなくその場に現れたリリアが監督生とケイトの異様な様子を見ては悪戯っ子のように笑う。ケイトはリリアに見つかってしまったことで気まずそうにしながら少しだけ監督生から離れた。
「さてはケイト。お主、嫉妬しておるな?」
監督生はリリアからの突然の言葉に一拍置いてから瞬きする。
「まさか。何を言い出すんですか、リリア先輩はもう」
監督生にしてみればケイトに嫉妬される理由も分からないし心当たりもない。そんな監督生に対しケイトが再び苛立ったように壁に片手をついた。
「けーくん、監督生ちゃんのそういう清純派っぽいところが苦手なんだよねえ」
声はいつもの調子なのに目が笑っていないケイトの姿にリリアは頬を緩ませる。
「わしもケイトに同感じゃ。監督生ならケイトの想いにとっくに気づいているはずだと思うがのう」
とはいえ。と言いながらリリアがケイトに軽く触れて監督生の前から距離を取らせる。その僅かに開いた距離の間に自身の身体を滑り込ませたリリアはにんまりと笑いながらケイトを見上げた。
「残念ながら、ずいぶんと距離感がおかしい監督生の友人達に嫉妬しておるのはお主だけではないぞ。わしも、監督生に恋する男の一人じゃ」
リリアの発言に目を大きく見開いたのは監督生だけではなくケイトも同じだった。ケイトは躊躇う様子を見せるも、すぐに気を取り直す。
「まさかリリアちゃんと恋のライバル関係になっちゃうなんてけーくんマジでびっくり」
そう言ってから、ケイトの表情が引き締まる。それにつられるようにリリアの顔も真面目なものになった。
「オレ、負けないから」
「望むところじゃ」
いかにもバチバチと火花が散っていそうな二人の先輩に対し監督生は困惑しながら眺めることしかできなかった。
2022.10.29