Bookso beautiful yet terrific.

 三脚の上に設置したカメラのファインダーを覗く。もうすぐこの場所に列車が走り抜ける。魔法や化学が発展したこの世界には珍しい蒸気機関車が今日限定で三回だけ線路を走るのだ。
 今か今かと思いながら私はシャッターに指をかける。遠くから蒸気が確認できた。もう少し、もう少し。そして、今まさに私の目の前を蒸気機関車がやって来た。迷わずシャッターを押す。何度も、その被写体をカメラのレンズと私の脳裏に焼きつけた。
 蒸気機関車が目の前を通り過ぎてから私はファインダーを覗くのをやめて三脚からカメラを外す。撮影データをすぐに確認した。レールが敷かれる上を艶やかな黒いボディの蒸気機関車が通る。背景には見頃の紅葉と、風によって遊ばれた落ち葉が蒸気機関車の訪れに祝福を授けるように散りばめられていた。
 ところが、だ。何故か蒸気機関車と共にタンドリーチキンを食べながらこちらを見る見知った顔が写り込んでいる。私は撮影データから視線を上げて前を見る。やはりというべきか、そこにはタンドリーチキンを片手に私を見つめる人物がいた。

「監督生氏!!!向こうでシークレットイベ始まりますぞ!!!」

イデア先輩はヒヒと歯を見せて笑っている。
 本日は鉄道イベントが開催されているため、別界隈ではあるがオタク仲間のイデア先輩に誘われて私はこの場所にいた。そういえば、会場のタイムスケジュールだとそろそろ未発表だったシークレットイベントが開催される時間だ。勿論、それはとても気になるし楽しみだった。それより、である。

「写真が」

 ぽつりと口にした私の言葉を拾ってイデア先輩はああと口を開きながらカメラの撮影データを覗き込む。

「今、あのSSR蒸気機関車が通過しましたぞ。撮り鉄の監督生氏ならさぞ見事な出来だったんでしょうなあ」

そこまで言ってからイデア先輩が文字通り固まった。それもそうだろう。青空と紅葉を背景に艶やかなボディの蒸気機関車がある。そして、それらを背景にタンドリーチキン食べながらこちらを見るイデア先輩がばっちりと写っているのだから。

「ななな!?拙者が写り込んでいるですとお!?」

イデア先輩はただでさえ色白の顔をさらに蒼白にさせながら狼狽した。

「そそそそんな!!!推しは違えどオタク仲間の芸術を踏み荒らすとは拙者なんということを!?」

持っているタンドリーチキンがイデア先輩によって握り潰されそうだ。そんな哀れなタンドリーチキンなんぞ目に入らないイデア先輩は必死にぺこぺこ頭を下げながら私に謝り倒してくる。めっちゃくちゃ泣きそうになっているイデア先輩を他所に私は再び撮影データを眺めた。
 本当は、蒸気機関車だけ撮りたかった。とても希少な存在をデータとして残しておきたかった。

「これはこれで、美しい芸術です」

 つい、ふふふと笑ってしまう。イデア先輩は目を丸くしながら私を凝視する。だけど私は、それには触れずイデア先輩に声をかけた。

「さて。シークレットイベ、行きましょう」

「でででも、その、」

「ところでイデア先輩、そのタンドリーチキンは何処で売っているんですか?」

罪悪感に苛まれているイデア先輩を無理やり連れてイベント会場へ戻る。それから鉄道イベントが終了するまでイデア先輩と遊び歩いたのだった。
 ちなみに、あの写真が、イデア先輩とのデートスチルみたいだと思っているのは私だけの秘密。

2022.10.30
タンドリーチキン 三脚|女監督生受け版ワンドロワンライ