Bookso beautiful yet terrific.

 ハロウィーンパーティーで賑やかな談話室をライク・ツーは一人そっと抜け出した。
 寮の廊下を歩き、玄関から外に出ると夜の闇色に染まる世界へ足を向ける。いよいよ冬が始まるかのように外の空気が澄んで冷たい。おかげで空には幾千もの星が綺麗に煌めいているのがよく見えた。
 夜の士官学校はいつもだったら静かなのだが、今日はハロウィーンナイトのため校舎も寮もちらほらと灯りが確認できる。道端にぼんやりと彩るおばけかぼちゃのランタンを頼りに先へ進むとメモリアルウォールに辿り着く。ライク・ツーはようやく見つけた人物に声をかけた。

「ずいぶんと長いお手洗いじゃねえか」

 だいぶ前にお手洗いに行くからと談話室を出て行ったはずのマスターをライク・ツーは追って来た。メモリアルウォールの前に突っ立っているマスターの手にはたくさんのお菓子を詰め合わせたバスケットがある。反対の手には薔薇とガーベラとピンポンマムを組み合わせた花束があった。

「そういうライク・ツーこそどうしたの?」

マスターがメモリアルウォールから目を離さないまま尋ねると、ライク・ツーは思いっきり顔を顰めてからマスターの横に並んだ。

「悪戯されても困るからな」

ぶっきらぼうに言うライク・ツーの右手にも花束があった。薔薇と竜胆と秋桜を組み合わせたものだ。

「おかえりなさい。ヴィヴィアン」

マスターが先に花束をメモリアルウォールの献花台の上に置く。それに続くようにライク・ツーも手にしている花束を置いた。

「今日が終わったらさっさと帰れよ」

ライク・ツーの物言いにマスターが若干表情を曇らせる。

「まあ確かに。ずっとこの世で彷徨っていれば悪霊になっちゃうからね」

言葉の足らないライク・ツーの気持ちを代弁するようにマスターがメモリアルウォールに向かって話している。ライク・ツーはメモリアルウォールに刻まれた持ち主だった人物の名を指でなぞる。相変わらず、冷たい石碑だった。

「Trick or Treat」

 不意に声がして、ライク・ツーがメモリアルウォールから手を離して振り向いた。ライク・ツーの突然の行動にマスターはメモリアルウォールからライク・ツーに視線を向ける。マスターは数回瞬きを繰り返し、それから僅かに頬を緩めながらお菓子の入ったバスケットをライク・ツーに差し出した。

「悪戯しに来てくれるといいなあ」

マスターの呑気な声音にライク・ツーは鼻で笑ってからバスケットを受け取り、献花台の上に乗せる。

「悪戯して、悪霊と間違えて祓われても知らねーからな。だからとりあえず、これで我慢しとけ」

そう言ったライク・ツーの声音は、とても優しいものだった。

2022.10.31