
Bookso beautiful yet terrific.
休日に麓の街へ出かけると、Trick or Treatと仮装した子供達にお菓子を強請られる監督生さんの姿を見つけた。彼女はぎこちない笑顔を浮かべながらバスケットの中から個包装されたおばけかぼちゃの形をしたクッキーを取り出して子供達に渡す。それからバスケットに括りつけられた風船も渡し、バイバイと手を振ってから走り去って行く子供達を彼女もまた手を振って見送った。残念ながら、彼女の表情ときたら最後までぎこちない。
「あなたねえ。もう少し愛想を良くしないと」
僕に声をかけられた彼女が僕に振り向くと僅かに眉を寄せる。せっかくかわいい魔女の格好をしているというのに。
「すみません。気をつけます」
と言いつつ、彼女の眉間にさらに皺が寄る。素材は良いのに彼女は表情の変化が乏しいのでもったいない。それは彼女の性分なので仕方がないのだろう。とりあえず僕は、これ以上彼女の接客態度に触れず話題を変えることにした。
「それで。あなたは何故ここでアルバイトをしているんですか?」
アルバイトがしたいならモストロ・ラウンジがあるでしょう。と言おうとして口を噤む。一方彼女は、自分の背後にある洋菓子店を示しながら特に表情を変えずに答えた。
「学園長に頼まれたんです。ここのお店の店長さん、学園長の親しいご友人らしくて」
彼女曰く、この洋菓子店はカフェも併設しているのでハロウィーンシーズンはとても忙しく人手が欲しいので彼女が駆り出されたというわけだった。
話を聞いてから僕は再度彼女の格好を見る。
「勤務の際は毎度その格好をなさるのですか?」
「まあ、ハロウィーンシーズンですので」
それが何か?と言いたげな彼女に僕は深々と溜息を吐く。失礼、と一言断ってから僕は思わず彼女に手を伸ばした。
「口角をもう少し上げなさい。お子様に逃げられますよ」
両手で彼女の両頬を軽く摘んだ。僅かに目を見開いた彼女が僕を凝視する。その時間、数秒にも満たないだろう。
「気をつけます」
僕が彼女から手を離すと、彼女は僕の後ろに何かを見つけたらしくぱっと僕から距離を取った。
「ごめんなさい。勤務中なので失礼いたします」
早口に言ってのけた彼女が走って何処かへ行ってしまう。僕は何を見つけたのかと顔を顰めながら彼女の背中を視線で追いかけた。
「こんにちは。悪戯は嫌だからお菓子を受け取ってくれますか?」
彼女はバスケットの中からおばけかぼちゃのクッキーが入った小袋を取り出してその場にしゃがむ。目の前でしゃがんだ彼女に対し、泣いている男の子は驚いたのか目を真ん丸としていた。あの様子からして、迷子になってしまったのだろう。
「もらっていいの?」
「はい」
おずおずと尋ねる男の子に彼女の頬が緩む。それはぎこちない笑顔なんかではなくとても優しいものだった。
「あ、でも。お菓子を貰う時には挨拶が必要ですが」
男の子が瞬きを繰り返す。それから何かに気づいたかのように口を開いてから言ったのだった。
「Trick or Treat?」
「Happy Halloween」
そう返した彼女は男の子におばけかぼちゃのクッキーが入った小袋を差し出した。男の子がそれを受け取るのを見てから僕はずんずんと二人の側に行く。
「さて。この子の親御さんを探しましょうか」
側に来た僕に対して彼女が表情を消し眉を寄せる。相変わらず、もったいない人だ。
「それじゃあアズール先輩。この子と一緒にうちのテラス席で座っててもらえますか?私、お菓子を配りながら辺りの様子を見て来ますので」
「分かりました。では、僕と一緒におやつを食べて待っていましょう」
彼女と僕の提案に男の子が素直に頷いた。
その場から立ち上がった彼女は僕達に背を向けて足早に歩き去って行く。僕の隣で彼女の背中を見送りながら男の子が言ったのだった。
「優しい魔女のお姉ちゃんだね」
それに対し、僕は胸を張って答えてやった。
「当たり前です。分かりづらいですが、彼女はとても心優しい方ですよ」
だから、好きなんです。その言葉はまだ言えないまま胸の内に隠している。
2022.10.31