
Bookso beautiful yet terrific.
※ナイトレイブンカレッジを卒業してからのお話です。
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リリアはある日、困った顔をしながら立ち尽くす女性に出会した。彼女は時折スマホの画面を見つめて眉を寄せては辺りをきょろきょろと見回している。
「どうかしたのか?」
明らかに困り果てる女性を放っておくわけにもいかずリリアは彼女に声をかけた。彼女はリリアの服装を視界に入れた瞬間、あのマレウス・ドラコニアの護衛だと気づき表情を強張らせる。だけど、身分が違うからと躊躇う余裕なんぞ今の彼女にはなかった。
「実は、歯科医のジグボルト先生に急ぎの使いを頼まれていたのですが。お恥ずかしい話、私は茨の谷に来たばかりで場所が分からず、道中迷ってしまって」
リリアは彼女の持つスマホの画面を覗き込む。そこには茨の谷特有の地理と溢れる魔力のせいで位置情報が全く仕事をせずあらぬ方向に矢印が向いている地図アプリがあった。ちなみに、もう片方の彼女の手には大雑把に描かれた地図があるが、もう一度言うが大雑把にしか地図が描かれていない。あっち、こっち、だいたいこのへん、という文字のオンパレードだ。
「ジグボルト医師というのは、わしの記憶が正しければセベクの父親のはずじゃが」
あのセベクをよく知っているので、まさかセベクの父親がこんなに大雑把なメモを書くとは思わず意外すぎてリリアは笑った。残念ながら、彼女にしてみれば笑い事ではないのだが。
ちょうどその時だった。遥か遠くから物凄い早さで走りながら鼓膜が破れそうなほど大きな声でリリアの名を呼ぶセベクが現れた。セベクはリリアの目の前で急停止したかと思えば真っ先にご挨拶する。それから身体の向きを変えてリリアの側にいた彼女にキッと睨みつけながら口を開いた。
「貴様!!!ここにおわす方がどなたと心得る!!!貴様が気軽に話していい方ではない!!!この服の腕章が目に入らぬか!!!!!」
「水戸の黄門様みたいな言い方じゃのう」
来て早々に彼女に大きな声で問うセベクの姿にリリアは呆れた。一方、彼女はセベクの態度に慣れっこらしく特に表情を変えないまま答えた。
「ごめんなさい。ジグボルト先生の懇意にしている製薬会社の場所が分からなくて」
「あのメモだと確かに分かりづらいな。だが、安心しろ。僕がおまえについて行ってやる」
踏ん反り返るようにセベクは意気揚々と言ってのける。リリアは二人の会話を黙って聞いていたが、ふと、にんまりと微笑んだ。
「わしもついて行こう。茨の谷の案内も兼ねて」
セベクはリリアの提案に恐れ多いと断るが、残念ながらリリアに譲る気は全くない。だからこそ、リリアはセベクに尋ねた。
「ところで、お主達はどういったご関係かのう?」
セベクはリリアからの質問に面食らうが、すぐに背筋をすっと伸ばしてから答える。
「リリア様に紹介が遅れてしまい申し訳ありません!この者は父の歯科医院で歯科助手をしております!彼女は茨の谷へやって来てまだ日が浅いので当歯科医院の息子である僕が責任を持って面倒を見てやっているところです!」
ほうとリリアは頷きながら今度は彼女を見る。彼女の表情を見ても実は恋仲でしたという隠し事をしている雰囲気はない。
「ならばわしも、お主がこの土地に慣れるまで協力しよう。これからは、遠慮なくわしに声をかけるがよい」
リリアは彼女にそう言ってからにっこりと微笑んでみせた。彼女はリリアの言葉に立場的なものを感じながらも躊躇いつつ返事する。
一方、当のリリアは新しい友人が増えそうだと思いながら心が弾んだのだった。
2022.11.02