
Bookso beautiful yet terrific.
ジャックが廊下を歩いていると曲がり角の向こうからやって来た人物がジャックの胸板に顔をぶつけた。男ばかりの学園で唯一違う女の子独特の甘い香りに反応したジャックが耳をぴくりと思わず動かした。
「監督生、大丈夫か?」
「ごめんなさい。余所見してた」
監督生はジャックの胸板から顔を上げて申し訳なさそうに僅かに眉を下げる。ジャックは不本意の事故ではあるが自身の腕の中にいる女の子の姿にちょっとドキドキした。
「俺も悪かったし、次からはお互いに気をつけようぜ」
「うん」
監督生がジャックの腕の中からすっと離れた。ジャックは監督生にバレないよう心臓の乱れを直すために深呼吸する。しかし、ジャックの内心を全く知らない監督生は再びずいとジャックに近づき、あろうことかジャックの立派な胸板に手を這わせた。
「は?」
これにはジャックは口をぽかんと開けるしかない。一方、監督生はぺたぺたと無遠慮にジャックの身体を触り、それから頬を染めた。
「なんて素敵な胸筋なのだろう」
まるで恍惚とした監督生の表情と声にジャックは一瞬何を言われたのか分からなかった。その間に、監督生は、失礼と一言断ってから今度はジャックの上腕部を撫でる。監督生はジャックの身体に触れるたびに瞳の奥を潤ませながら感嘆の溜息を吐いた。
「え。ちょ、おい、」
女の子に身体中を弄られたジャックはもうどうしたらと顔を真っ赤に染めながらその場に硬直する。
「あ、あんまり触るな」
ぷるぷると肩を震わせるジャックの姿に監督生がようやく我に返る。
「ごめんなさい。つい」
そう言った監督生がぱっとジャックから離れた。ジャックの心臓は相変わらずめっちゃくちゃ乱れている。一方、監督生の表情はジャックの筋肉から手を離した瞬間、いつも通りの変化が乏しいものに変わった。
しかし、これで話が終わるわけではなかった。廊下の遥か離れた先から物凄い勢いで飛んで来た物体にジャックと監督生が振り向く。その物体は監督生の目の前で急停止したかと思えば、両手を伸ばしてがっちりと監督生の両肩を掴んだのだった。
「か、ん、と、く、せ、い、さん!!!!!」
物体の正体であるオルトは、目を細めて監督生のことを睨む。それから、廊下中に響き渡るようなボリュームで言ったのだった。
「もう監督生さん!!!歳上の大人のヒトの筋肉しか興味なかったんじゃないの!?同級生は守備範囲外って前に言ってたじゃん!!!そんなにジャック・ハウルさんの身体が魅力的なの!?この浮気者お!!!」
廊下に居合わせた生徒達の視線がジャックに注がれる。ジャックはいつのまにか集まりつつある野次馬にハッとした。
「確かに本命はバルガス先生の身体だけど。ジャックの身体はそれに劣らない魅力を持っているの。私の知的好奇心を満たしてくれる素晴らしい体躯だよ」
「そんなあ」
「ついでに言うと、最近はシルバー先輩の制服の下に隠された身体にもときめきを感じるかな」
「監督生さんってば心を奪われすぎじゃないかな!?」
ぷんすこと怒るオルトに対して監督生は表情を変えずにしれっと返している。そのせいで、その場に居合わせる生徒達の視線が全てジャックへ向いた。
「すっげえ修羅場じゃん」
「監督生とハウルってそういう関係なんだ」
「オルトがかわいそう」
ジャックは耳と尻尾をぴーんと立てながら周囲に誤解だと説得するが、残念ながら余計に怪しまれていく。慌てたジャックはまだ言い争うオルトと監督生の間に割って入った。
「おまえらいいかげんにしろ!!!俺を巻き込むな!!!痴話喧嘩なら他所でやれ!!!」
ジャックの切なる叫びに監督生は眉を寄せて首を傾げる。一方オルトは、監督生の肩から離された両手をぎゅっと握りしめて大きな目をすっと細めた。
「ジャック・ハウルさんがその身体で監督生さんのことを誑かしたこと、僕は許さないから」
オルトの言葉に生徒達の間にますます動揺が広がっていく。余計に悪化していく事態にジャックは頭を抱えたのだった。
2022.11.04