
Bookso beautiful yet terrific.
[出発]
イデアは口をぽかんと開けていた。花の街に行きたくないと駄々をこねているイデアに対し、オルトは友達を作って来てねとにこやかに見送った。
しかし、今のオルトはどうだろうか。鏡の間に監督生がいると察知したオルトは光より早い速度ですぐにやって来ては監督生の両肩を掴みぐらぐらと揺すっている。
「監督生さんが行くだなんて僕聞いてない!!!」
「うん。私もさっき知ったばかりなの」
「嫌だ!!!監督生さんは行っちゃダメ!!!」
「私も正直に言うと行きたくないんだけど」
花の街に行きたくないと駄々をこねたイデア以上に監督生に行かないでと駄々をこねるオルトの姿にイデアは白目を剥く。一方、監督生は心底嫌そうに表情を歪めてみせた。
「だって、一緒に同行してくださる先生がトレイン先生だしさ。バルガス先生だったら喜んでついて行くけれど」
監督生の気の進まない呆れた理由にアズールが思わずイデアに耳打ちする。相変わらずですね、監督生さんは。それはイデアも同意見だ。
やがて、言っても無駄だと頭の中の隅っこで理解しているオルトは駄々をこねるのをやめた。
「本当はすっごく行ってほしくないけど。監督生さん、気をつけて行って来てね。くれぐれも、ムキムキマッチョのヒトに声をかけられたり見つけてもついて行ったらダメだよ。約束!」
オルトに言い聞かされ、監督生は表情を変えずに頷く。そんな二人の姿にイデアとアズールは揃って溜息を吐いたのだった。
「兄さん!!!アズール・アーシェングロットさん!!!くれぐれも監督生さんから目を離さないでね!!!監督生さんが見知らぬマッチョに誘拐されないようにちゃんと見守ってて!!!」
オルトの言葉にイデアとアズールはお互いに顔を見合わせた。マッチョ限定なんだ、とツッコミを入れてはいけないのである。
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[マッチョじゃない]
ノーブルベルカレッジに到着し、生徒会長であるロロ・フランムの話を聞いていたイデアとアズールの間に挟まれて並ぶ監督生は密かに溜息を吐いていた。
「どうかなさいましたか?」
アズールが気にして監督生に声をかけると、監督生は僅かに眉を寄せる。
「ロロさん。マッチョじゃないなあと思いまして」
「マッチョだったらどうするのか寧ろ知りたいっすわ」
監督生の言葉にイデアが呆れる。これはオルトも苦労するだろうなあと母校で泣く泣くお留守番中の弟のことをイデアは思う。
一通り説明が終わり、招いたナイトレイブンカレッジ生に貸し出した衣装に着替え終わった頃。ロロはここに来てから先輩二人にずっと挟まれて行動する監督生の姿が目に入り声をかけてきた。
「何か不便があれば遠慮なく言ってくれたまえ。あ、ちょっと失礼する」
ロロは監督生が被る帽子にすっと手を伸ばして直す。
「ハットの向きが曲がっていたのが気になってね。気をつけるように」
その瞬間、アズールが監督生とロロの間に割って入る。アズールが監督生の身体を背中に隠すところに、さらにイデアが手を広げて牽制してみせた。
「ううううちの子に!不用意に近づかないでいただきたい!」
イデアの剣幕にロロが意味が分からないと言いたげに表情を歪める。一方、アズールもまた口を開いたのだった。
「いくらあなたの見た目がマッチョではないとしても、脱いだら凄い可能性もあります。これ以上、マッチョに振り回されるのは御免ですから」
ますます訳が分からないと困惑するロロを、一連の流れを遠くから眺めていた一部のナイトレイブンカレッジ生は哀れに思うのだった。
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[お土産]
フィールドワークの途中で、アズールは別行動していた監督生と出会した。
本当だったらオルトに言われた通り、監督生の行動を見張っていたいが、監督生と共に行動するのがトレイン先生ならばと納得するしかない。
そんなこんなでアズールが監督生に声をかけた時には、監督生は友人にお土産を買おうと頭を悩ませているところだった。
「エースさんへのお土産ですか?」
監督生の一番仲が良い友人を把握しているアズールは迷わずそう尋ねた。
「勿論エースにも買いますが、何にしようかあとでデュースと相談して決めます」
監督生からの意外な言葉に、まあ三人で親友だからかとアズールは納得する。しかし、ハタと思う。では、そんなに真剣な表情をして誰へのお土産を選んでいるのだろうか。
「あなたがそんなに考え込んで選ぶ相手、とても気になりますねえ」
若干ニヤつきながらアズールは監督生の横顔をじっと見つめる。監督生はアズールの視線なんぞ気にせず、いくつかの物を眺めては頬を緩めた。
「オルトくんに、何をあげたらいいか迷ってしまって。どうせなら、喜んでくれるものをあげたいですから」
監督生の表情にアズールは思わず数回瞬きする。だけど、すぐに眼鏡の奥の瞳を柔らかいものに変化させた。
「あなたからの贈り物なら、オルトさんは何でも喜んでくれると思いますよ」
オルトさん。あなたの恋、報われる日も近いかもしれませんよ。
アズールは心の中で、お留守番中のヒューマノイドのことをそっと思ったのだった。
2022.11.04