
Bookso beautiful yet terrific.
オルトが廊下を進んでいると、相変わらず恍惚の表情を浮かべながらバルガス先生と話す監督生の姿を見つけた。オルトは頬をむうっと膨らませながら監督生の元へ行く。監督生は話が終わったらしく歩き去って行くバルガス先生の姿を見送ってからオルトに振り向いた。
「またバルガス先生の筋肉に夢中になってたの?」
オルトがしょんぼりとしながら尋ねると、監督生はいつものように表情を変えずに肯定する。
「バルガス先生ってさ、話すたびに喉仏とか胸がぴくぴく動くから。ついね」
監督生に悪気はないのだろうけれど、オルトにしてみればおもしろくはない。自分の好きなヒトが誰かの筋肉に日々夢中になっているのは嫌だった。とはいえ、監督生がマッチョ好きなのは今に始まった話ではない。それでもオルトは、そんな監督生に恋をしている。
「あーあ。監督生さんが僕の身体に夢中になってくれればいいのに」
「もしそうなったら、毎日遠慮なくオルトくんの身体に触ってもいい?」
「それはそれでドキドキしちゃうから困るかなあ」
そっかと監督生が相槌を打つ。オルトは監督生の顔をじっと見つめてから、こてんと首を傾げた。
「それじゃあ、僕が毎日監督生さんの身体に触れるのはダメ?」
オルトの問いに監督生は意図が分からず首を傾げる。僅かに、監督生の眉が寄る。
「触りたいの?」
監督生の言葉にオルトが表情を暗くする。
「そりゃあ、触りたいよ」
ぽそりと、それはそれは小さい声だった。オルトの小さな声を耳に入れた監督生は少しだけ考え込む。だけどすぐに、考えるのをやめて両手を開いた。
「いいよ、触って」
「え、」
「筋肉質じゃないからつまらないと思うけど」
オルトは言葉を失った。要するに、監督生は自分の身体の筋肉をオルトが触りたがっていると思っているのだろう。
「バカにしてる?」
つい、オルトは制御不能なくらい感情的になって監督生との間の距離を詰める。
「ロボットに触られても大したことないって思ってるよね」
監督生の頬がぴくりと動く。監督生は広げていた両手を下ろし、すっと後ろに下がった。
「できることなら触らないでほしい。ドキドキ、しちゃうから」
オルトの目が数回瞬きする。思わず監督生のバイタルをスキャンした。見た目にあんまり変化はないが、監督生の表情がほんの僅かに赤く染まっている。
「ドキドキしてくれるの?」
「うん」
「僕の身体、ムキムキマッチョじゃないよ?」
「知ってるよ」
「それじゃあ、どうして?」
「あんなに連日好意を示されたら、どうしたって意識しちゃう」
「ヒトってそうなの?」
「ヒトはそういう生き物です」
監督生の頬が緩んだ。オルトは少し悩んでから、監督生に近づいた。
「触ってもいい?」
「私の肩はよく掴むくせに」
「それ以外を触りたいんだ」
監督生は否定も肯定もせず瞼を閉じる。オルトはそっと両手を伸ばして、監督生の両頬に触れた。
「ところで、もうムキムキマッチョの王子様に憧れるのはやめたの?」
「それは無理だけど。でも、マッチョじゃない王子様なら目の前にいるから」
監督生の瞼が開く。至近距離で見つめ合ったオルトと監督生は、同時に柔らかく笑うのだった。
「これからもマッチョに憧れるからよろしくね」
「もう。まだまだ僕を嫉妬に狂わせる気なんだから」
色んな生徒達が行き交う廊下で幸せそうに笑う二人を影からこっそり眺める面々がいた。ハンカチで涙を拭うイデアと、腕を組みながらホッとするジャックと、呆れたように笑うアズール。三人はようやく実ったオルトの恋の行方に自分のことのように喜んでいたのだった。
2022.11.04