Bookso beautiful yet terrific.

 私は内心困りながら相手の顔を見つめた。茨の谷の次期当主マレウス・ドラコニアは鋭い双眸でこちらを見つめている。残念ながらこの場所は王宮でもなく勿論戦場というわけでもない。賢者の島内にある麓の街に連ねる一軒の店。要するに、カフェのテラス席に私達は向かい合って座っていた。
 マレウスさんは手元にあるファイリングされた写真と私を不躾なくらい交互に見比べている。自分で言うのもあれだが、そんなに写真と実物は変わらないと思うけど。

「あまり似てないな」

マレウスさんはふむと少し考える素振りを見せる。急に、双眸から鋭さが消え、怖さより幼さが若干増したマレウスさんの表情に私の緊張感が柔らいだ。

「似てない、でしょうか?」

そんなに写真と別人なのだろうか。正真正銘の同一人物ですけど。

「ああ、似てないな。とても、あのレオナ・キングスカラーの妹君とは思えぬな」

思わぬ言葉に私が目をぱちぱちと瞬きすると、マレウスさんの表情が柔らかくなった。

「僕に生意気な態度を取るあのキングスカラーの雰囲気をおまえからは一切感じない」

どんな態度を取っているのだろう、お兄様は。それをマレウスさんに尋ねる度胸は私にはない。

「お兄様のご無礼に代わり、私がお詫び申し上げます」

深々と一礼すると、マレウスさんが目を瞬く。それからやんわりと笑みを浮かべた。

「別に構わない。僕もそれなりの態度でやっている。お互い様だ」

マレウスさんの態度に、正直ホッとした。茨の谷の次期当主なんて呼ばれる世界でも五本の指に入る魔法士なんぞ、さぞプライドが高く怖い存在だと思っていた。だけど、意外と心が広くて優しそうだ。

「あんまり度が過ぎると雷でも落としてやりたくなるが」

前言撤回。お兄様、お願いだからおとなしくしててください。

「ところで、おまえが通う学校も賢者の島にあるのだったな?」

 振られた話題が変わり、私はああと思いながら頷く。

「はい。ナイトレイブンカレッジとは全く逆方向にありますので、もしかしたらマレウスさんはご存知ないかもしれません」

「まあ、そうだな。おまえが通う学校はそもそも女子校だと聞いている」

興味深そうに尋ねてくるマレウスさんに私が答えていく。マレウスさんは一通り質問を終えると、急に口を閉ざして私の顔を凝視した。
 再び、鋭い双眸が向けられるので私の顔が緊張で強張っていく。マレウスさんはその怖い顔のまま、すっと手を伸ばしてきた。
 思わずぎゅっと目を瞑ると、ふにと私の耳が弄られる感触がした。恐る恐る瞼を開けると、マレウスさんが興味深そうな表情を浮かべたまま私の耳を無遠慮に触り続けていた。

「これはおもしろい。獣人の耳は常々触れてみたいと思ってはいたが、学園に通う獣人達は皆警戒心が強く諦めようと思っていたところだ。まさか、このような形で叶うとは」

耳を触られてくすぐったい。でも、マレウスさんに悪気があるわけではないので恥ずかしいけど我慢する。ふにふにとマレウスさんは私の耳を弄りながら、ふと、ああと思い出したように口を開いた。

「同じ賢者の島に学校があるのなら、次の休日も会えるな」

マレウスさんの思いがけない言葉に私は目をぱちぱちと瞬きさせる。だけど、マレウスさんはやんわりと微笑んだまま私に再度尋ねるのだった。

「予定があるのか?無ければ、構わぬだろう?おまえは、これから僕の許嫁になるのだから」

思わず目を真ん丸とする私なんぞ気にせず、マレウスさんは私の耳から手を離して席を立った。

「さあ。ただ話すだけでは勿体無い。まだ時間はある。何処かへ共に出かけるとしよう」

マレウスさんに促されて席を立つ。私に気遣いながらも先を歩くマレウスさんの背中を追いかけようとしたら、マレウスさんが突然足を止めてしまった。

「ああ、そうだった」

ふいに、マレウスさんが私に振り向いた。それからちょっと悪い笑みを浮かべてから口を開いたのだった。

「夕焼けの草原にあるそちらの王宮に後程連絡を入れさせよう。キングスカラー家のご令嬢との許嫁の件、ぜひ進めさせていただこう、と」

 私はマジかと思いながらマレウスさんの顔を凝視する。
 この数時間後、私とマレウスさんの顔合わせの件を知ったお兄様が物凄い勢いでディアソムニア寮に乗り込んで行くことになるなんぞ、今の私には知る由もなかった。

2022.11.05