Bookso beautiful yet terrific.

 休日のある日、私は外出届けをラッセル教官にきちんと提出してから一人街中をぶらぶらと歩いていた。
 ヴィヴィアンがいた頃は休みのたびに一緒に出かけていたけれど、正直今はそんなに親しい友人はいない。それでも、ずっと士官学校の敷地内にいるのは気が休まらないので目的もないのに粧し込んで出歩く。いつのまにか、ヴィヴィアンを失ってからの私のルーティーンとやらになっていた。
 何処かのカフェに入ってティータイムしようかと悩んでいる時、ふと、誰かにつけられている気がした。相手に気づかれないように一軒の洋服店の前に立ち、展示された着飾ったマネキンを見るふりをしながらガラス越しに背後を見る。私より少し離れた先にいる人物が足を止め、私から顔を背けて何処かを見た。
 私が再び足を動かすと、あちらもゆっくりとした足取りで私のあとを追いかけてくる。トルレ・シャフだろうかと思うが、それにしても尾行が下手だ。というか、尾行していることすら隠す気もない。
 私は足早に進んでから適当な路地裏に入る。しかし、それは相手の方が上手だった。

「鬼ごっこはもう終わりか?」

 雑居ビルの上からすっと飛び降りてきたスナイダーに私は眉を寄せる。当のスナイダーは唇に弧を描きながら私を見下ろした。

「鬼ごっこしてるつもりはないよ。というか、スナイダーは私に用事?」

「用がなければおまえについて行ってはいけないのか?」

スナイダーの雰囲気からして緊急の任務があるわけでもなさそうだ。だからと言って、スナイダーが好き好んで街中を出歩いているとは思えないが。

「私について来てもおもしろくはないよ」

「おもしろいかどうかは俺が決める」

そう言ってのけたスナイダーは一方的に私の手を掴んだ。スナイダーに引っ張られるまま私達は路地裏を出て表通りを歩く。

「とりあえず、俺がいるせいで、おまえが何処ぞの馬の骨とも分からない輩と会うことができなくなったのは確かだ」

私はつい瞬きをする。何を言い出すのかと首を傾げたくなったが、粧し込んだ私の格好にどうやらスナイダーは私がデートに出かけると勘違いしたのだと理解はできた。

「私、一人で出かけるつもりだったんだけど」

「おまえは一人ではない。常に、俺がいるだろう?」

さらりと言ってのけるスナイダーに私は言葉を失う。これ、側から聞けば勘違いしそうだ。だって、言われた私ですら勘違いをしてしまいそうになる。

「そうだね。スナイダー」

 無理やり繋がれた手は恋人同士のように甘い雰囲気は全くない。まるで、幼子が親の手を急かすように引いて歩くそれに私はこっそりと笑ったのだった。

2022.11.05