Bookso beautiful yet terrific.

 ナイトレイブンカレッジには授業開始または終了のチャイムとは別に、時刻を知らせる鐘が鳴る。起床から始まり、朝食や昼食に夕食、そして門限と消灯。こちらの鐘の音も寮生活を送るナイトレイブンカレッジ生にはなくてはならない存在だった。
 午後6時30分、夕食の時間を知らせる鐘の音が学園中に響き渡る。それはオンボロ寮も同じだった。残念ながらオンボロ寮には食堂というものがないので自分で夕食を用意して食べる時刻の目安として私はいつもこの時間の鐘の音を聞いている。
 それなのに、今日の私は夕食の時間にもかかわらず食事の仕度を終えていない。それどころか、私はオンボロ寮にすらいなかった。
 午後6時30分の鐘の音を聞いた私はハッとして目を覚ました。寝ぼけた眼を思いっきり擦りながら辺りを見回すと、図書室の中は誰もいなかった。まずい、勉強しながら寝ちゃったじゃん。心の中で悪態をつきながら私は慌てて広げっぱなしのノートや教科書などを鞄の中に突っ込んでから席を立つ。図書室の戸締まりをしていたゴースト達に謝罪と挨拶をすると、ようやく起きた私をみんな笑いながら見送ってくれた。
 図書室を出て急いでオンボロ寮に向かおうとつい廊下を走る。薄暗い各教室の前を通り越して行くうちに、一つの教室の電気がつけっぱなしだということに気がついて私は無意識のままそちらに目を向けた。
 すると、机に突っ伏したまま動かない赤い影がそこにある。私は走っていた足を止め、どうしようかと思いながら教室の中をそっと覗いた。突っ伏した人物の肩が規則正しく上下している。まさかとは思うが、どう見てもそこにいるリドル先輩は書類の山に埋もれるようにして眠っているところだった。
 リドル先輩が転寝?とにわかに信じられないが、この状況は紛れもない事実だった。リドル先輩のことだからすぐに起きるだろうと思ったけれど、残念ながらリドル先輩から目を覚ます気配は全く感じられない。そんなこんな考えているうちに、時刻は刻々と過ぎていく。このまま放っておいて、寮の門限の鐘まで鳴ってしまったらと思うと、無視するわけにはいかなかった。

「リドル先輩?起きた方がいいです」

 教室の入口から声をかけても、リドル先輩から反応はない。上級生の教室に勝手に入っていいものか悩むが、それよりも時間がない。私は勇気を絞ってから普段なら先輩達が過ごす教室に足を踏み入れてリドル先輩の側に行く。もう一度、リドル先輩を呼ぶ。残念ながら、反応はない。どうしようかと思いながら意味もなくリドル先輩の後ろ姿を見つめてしまう。肩を揺らすしかないの?相手は先輩なのに?と悩み込むが結局それしか案が出なかった。

「し、失礼しますね」

 一応一言声をかけてから恐る恐るそーっとリドル先輩の肩に手を伸ばす。小柄な見た目なのに、触ると男の子独特の筋肉質な肩に心臓がドキドキとうるさい。それに気づかないふりをしながら今度は先程よりも大きな声でリドル先輩のことを呼んでは肩を緩く揺さぶった。

「リドル先輩!お願いです。起きてください」

祈るような気持ちで呼びかけてもまたしてもリドル先輩からは反応がない。困った私はとりあえずリドル先輩の肩から手を離した時だ。突然すっと伸びてきた手に私の手が掴まれる。リドル先輩は机の上からむくっと起き上がったかと思えば私の方を見上げた。

「すまない。ボクを起こしてくれたんだね」

 やっと起きたリドル先輩に私は心底ホッとしつつ頷く。それから教室に設置してある時計を示しながら夕食の時間を知らせる鐘の音が鳴ったことをリドル先輩に伝えた。

「すっかり転寝をしていたようだ。恥ずかしいところを見せてしまったね」

私から事情を聞いたリドル先輩がクスクス笑う。それからリドル先輩は私の手を離して机の上に散らばる書類を丁寧に重ねては鞄の中にしまった。

「もう夜道は暗い。オンボロ寮まで送ろう」

そう言ったリドル先輩は私の返事も聞かずさっさと教室の戸締まりをしてから私と一緒に廊下に出る。誰もいないだろう校舎の中を二人で並んで歩いた。
 早く帰らないと門限の鐘の音が鳴るというのに、リドル先輩は大層余裕そうに世間話をしながら廊下を歩いている。リドル先輩とは裏腹に、迫り来る門限にハラハラした私はリドル先輩に声をかけた。

「リドル先輩!急いでハーツラビュル寮へ戻った方がいいです。私は、一人でも平気ですので」

 だいたい、ルールに厳しいハーツラビュル寮長が門限までに帰寮しなかっただなんて大問題だ。それなのに、リドル先輩ときたら私の言葉に不思議そうに首を傾げてから何かを思い出したように小さく笑うのだ。

「門限のことなら心配いらないよ。それよりも、女の子を一人で夜道を歩かせる方が問題だ。ハートの女王も、きっとボクと同じ判断をするだろう」

そんなことより。そう言ってからリドル先輩が私に向き直る。

「次からは、不用意に男の肩に触れてはいけないよ。相手がボクだったからよかったけど。君は、女の子なんだから。中にはよからぬ考えを持つ者もいるだろう」

すっと伸びてきたリドル先輩の手が私の手を握る。瞬きする私を他所に、リドル先輩は頬を緩めるのだった。

「転寝した男を起こすのは、これからはボクだけにすること。おわかりだね?」

 その時、鐘の音が学園中に響き渡る。各寮の門限を知らせるそれに、リドル先輩は相変わらず動じることはなかった。

2022.11.12
鐘|女監督生受け版ワンドロワンライ