Bookso beautiful yet terrific.

 学園の長期休みを利用してシルバーがリリアと共に茨の谷にある自宅へ戻って来た次の日のことだった。
 シルバーが買い物から帰ってくると自宅の玄関の前に立つ小柄の女性に出会した。彼女はシルバーの足音に気づいたようでくるりと振り向く。シルバーよりも年下だろうか。ぱっちりとした大きな瞳と柔らかそうなほんのりと桃色をした頬のせいで、彼女の顔立ちがだいぶ幼く見えた。

「もしかして、シルバーくん?」

 彼女のぷっくりとした唇が確かに自分の名前を呼んだのでシルバーは思わず身構える。シルバーは目の前にいる彼女に見覚えはない。すっとシルバーが後退りしようとしたが、それよりも彼女が動く方が先だった。一瞬で玄関の前からシルバーの目の前に魔法で転移した彼女はぱしっとシルバーの両手を自身の両手で握りしめる。そのせいで、シルバーが持っていた買い物した食材やらが入った籠は地面に落ちてぶち撒けた。

「久しぶりだね!てっきりまだ砂遊びする年齢だと思ってお土産に楽しいお砂遊びセットプレミアムを持って来ちゃったんだけどいらなかったね!」

「は?砂遊び?」

「でも、本当に大きくなったねえ。つい12年ぶりに会っただけなのに」

彼女は瞳をきらきらと輝かせながらシルバーの両手をぶんぶんと振っている。あからさまに困惑するシルバーの後ろから、出先から帰宅したリリアが音もなく現れた。

「久しぶりじゃのう。おぬし、全然変わらないじゃないか。何処のお嬢さんかと思ったぞ」

「リリアさん!お久しぶりです!いやあ未だに未成年と間違われますよ!そういうリリアさんこそ、ぜんっぜんお変わりなさそうで良かったです!」

 リリアの登場に彼女はパッとシルバーから手を離し、今度はリリアの元へ行く。和気藹々と話す二人の姿にシルバーは首を傾げた。

「シルバー。もしや、覚えておらぬのか?おぬしとセベクが幼子の頃、よく遊んでもらっていたではないか」

シルバーの様子に気がついたリリアがシルバーに視線を向けると、彼女もまたシルバーを見る。シルバーにしてみれば、本人に面と向かって覚えてないと言い切るには気が引けた。

「まあ、シルバーくんもセベクくんも、小さかったからねえ」

彼女が特に気にせず納得した表情を浮かべたのでシルバーは内心ホッとする。一方リリアは、シルバーが覚えていないのであればと改めて彼女のことを紹介することにした。

「彼女はシルバーやセベクの姉弟子じゃ。もっとも、彼女がわしの弟子だったのはわりと前だったと思うがの」

「ほんの120年ほど前の話だけどね。今は、女王陛下の元でメイド長兼護衛を務めているの」

リリアと彼女が顔を見合わせて、ねー?なんて言っている。シルバーは額に手を当てながら情報を整理した。女王陛下というのはマレウスの祖母である、現茨の谷の当主である。その人物のメイド長兼護衛の役職についているのだから、彼女の実力は文武共に申し分ないのだろう。リリアの弟子だったというのも頷ける。

「若様がお城に戻られた時にリリアさんとシルバーくんも帰って来ていると窺い、つい会いたくなって押しかけてしまいました」

「女王陛下がお困りではないか?」

「いいえ。女王陛下も、たまには師に会っておいでと快くお暇をくださりまして。そうだ!女王陛下と若様から、リリアさんとシルバーくんにお城へお茶しに来るよう言伝を預かっています。ぜひ、いかがですか?」

「お二人からのお誘いか。これはぜひに行くべきじゃ」

「よかった!お二人とも、お喜びになりますよ」

 シルバーそっちのけできゃっきゃっとはしゃぐリリアと彼女に対してシルバーはやれやれと内心思う。でも、親父殿が楽しそうならば。と、結局は成り行きを見守ることにした。足元にぶち撒けられた買い物籠と食材を拾いながら。
 しばらくおしゃべりに夢中になっていたと思ったら、彼女はハッとしたように腕時計を見る。

「大変!今日、歯医者さんに予約しているんです」

「おぬし、虫歯でも治療中なのか?」

「ちーがーいーまーすー!!!半年に一回は歯科健診に行っているんです!身体の健康を維持するには、まずは口腔状態を良好に保たなければなりませんし!それに、セベクくんにもお城にお茶しにおいで!って伝えないと!それじゃあ!名残惜しいけど、失礼しますね!ジグボルト先生をお待たせしてしまうので!」

早口に言ってのけてから彼女がぐるりとシルバーの方を向く。くりくりの大きな瞳を細めてにっこりと微笑んでは大きく手を振った。

「シルバーくんもまたね!次に会った時、一緒に鬼ごっこしようね!ばいばーい!」

「え?ちょ、」

 シルバーの言葉を聞かず嵐のように彼女は去って行った。

「あやつ。シルバーのことをまだ幼子と勘違いしておるな。まったく、昔からそそっかしいやつじゃ」

そう言いつつも、リリアは楽しそうだった。シルバーはリリアの楽しそうな姿に、まあいいかと自分も頬を緩めてしまう。
 ところで、あの人はいくつなのだろうか?
 数日後、共にお城のティーパーティーに招待されたセベクが呟いた疑問にシルバーもまた首を傾げたのだった。

2022.11.16