
Bookso beautiful yet terrific.
放課後。生身で授業に出て来なさいとバルガス先生のなっがーいお説教を腕立て伏せをさせられながら受けるはめになり、ようやく解放されたのは午後4時30分を過ぎた頃だった。僕は疲れ切った身体とぷるぷると震える両腕を何とか動かしてイグニハイド寮に戻る。自室にさっさと籠ろうと思った矢先、談話室の方から楽しそうなオルトの声が聞こえてきた。どうせ寮生達と仲良くゲームして遊んでいるのだろうと思い、特に気にせず談話室の前を通り過ぎる。しかし、ハタと気づいた僕は再び踵を返してすぐに談話室の中へ足を踏み入れた。
「あ!兄さん!おかえりなさーい!お説教どうだった?」
やって来た僕をすぐに見つけたオルトがソファに座ったままにっこりとかわいい微笑みを浮かべる。そう、いつも通りの表情だ。
「はじめまして!勝手にお邪魔してすみません」
ただ、いつも通りではないのはオルトの隣に女の子が一緒に座っている。何故男子校に女の子を連れ込んでるの?と思ったけれど、彼女の顔立ちと特徴的な耳の形からすぐに妖精だと気がついた。この学園には気候を操る光の眷属の妖精達が住み着いている。おそらく彼女も、そのうちの一人なのだろう。
「あ、ああ、うん。ゆっくりしていって」
「ありがとうございます」
僕の言葉に彼女が嬉しそうに返事した。かわいい子だなあと思いながら僕は談話室を出ようとする。しかし、キッチンから戻ってきた寮生がグラスに注いだエナジードリンクを持って僕を呼び止めた。
「寮長!ここに置いておきますね」
は?と思いながら振り向くと、寮生はグラスをごとんとテーブルの上に置いた。あろうことか、オルトと彼女が座るソファの前に設置したテーブルの上である。
「どどどどうも」
え?拙者もここに座るの?カップル席の前にぼっちの拙者がここに?え?正気?と思いつつも寮生がせっかく淹れてくれたエナジードリンクを飲まないわけにはいかない。これは寮生なりの気遣いなのだ。ちょっと場所を考えてほしいけど。
「それじゃあ。あの、失礼して」
僕が一言断って二人とはテーブルを挟んだ反対側のソファに座ると、当のオルトと彼女からは快く返事がきた。
もっとも、これが地獄の始まりだった。
「君にはこういう服も似合うと思うよ」
「本当?素敵なデザイン。あ、この帽子はオルトくんに似合いそう」
「ありがとう。あ!見て見て、このイヤリングかわいいね!君に似合うだろうなあ。というか、どんなデザインの服もアクセサリーも全部君に似合っちゃうよね。君は世界中の誰よりもかわいいもん」
「もう!オルトくんったら!オルトくんの方こそ、どのファッションも着こなしちゃうよ!世界中の誰よりもかっこいいから」
「わあ!嬉しいなあ」
エナジードリンクにストローをぶっ刺してズコオと音を鳴らしながら飲んでいく。目の前でお互いの頬を寄せ合うようにファッション雑誌に指を滑らせてはいちゃつく弟とその恋人らしき妖精を眺めながら。
「そうだ!これも食べて!麓の街で人気の苺のタルトなんだって」
「凄い!まるで宝石みたいにつやつや!ありがとう、オルトくん」
「どういたしまして!」
ファッション雑誌から興味が逸れたのか、オルトは彼女に苺のタルトを振る舞った。彼女は嬉しそうにフォークを持ってタルトを口に入れる。
「すっごくおいしい!あ、でも。オルトくんは、」
そこまで言ってから彼女が口を噤む。しかし、オルトは特に気にせずふふふと笑ってから口を隠すマスク型の部品を外して彼女の顔に近づいた。
「僕はこれを貰うからいいんだよ」
あろうことか、オルトは彼女の唇の端についた苺のタルトに使われたクリームをぺろりと舐める。
「本当だ。成分からして、おいしいのは間違いないよ」
にっこりとオルトは笑う。彼女は数回瞬きしてから、悪戯に目を細める。それからオルトの剥き出しの唇に向かって自分の唇をちゅっと音を鳴らしてくっつけた。
「オルトくんと食べるからもっとおいしい」
「僕もそう思うよ!」
お互いに見つめ合って笑う恋人達を目の前にして僕の脳が完全にフリーズした。ズゴゴゴゴゴとストローを吸う情けない音を鳴らしたまま。
「あれ!?シュラウド寮長!?気絶してる!!!というか、何人か寮生が倒れてるーーー!!!」
その後、オルトと彼女のいちゃいちゃ具合を目撃したイグニハイド寮生達が何人も屍になっていったらしい。
2022.11.19