
Bookso beautiful yet terrific.
音楽室の前を通ったら、ミカエルがピアノを前にして立っていた。鍵盤に指を滑らせて、ただじっと瞼を伏せている。何かインスピレーションでも浮かんだのかなと思った私は特に気にせず廊下を進む足を止めなかった。
「マスター。そこにいるんでしょう?」
ミカエルの声にぴたりと足を止める。通り過ぎた音楽室を振り返るとミカエルはピアノの前から移動して廊下に出て来ていた。
「何処に行くの?」
「またベルガーとスナイダーが補習をサボったらしく捜索中。ミカエルは二人を見なかった?」
「見ていないよ」
「分かった。ありがとう」
短い会話を終わらせた私は再びミカエルに背を向けて歩く。しかし、タタッと軽やかな音を立ててミカエルが近づいてきたかと思えば私の手を取った。
「およし」
ミカエルに手を取られれば止まるしかない。私がミカエルを見上げるとミカエルは片方だけの綺麗な瞳をじっと私に向けている。
「君が行かなくても、先程それぞれの連れが探しに行くところを見たよ。だから、君は僕の元へおいで」
有無を言わさずミカエルが私の手を引っ張っては音楽室に連れて行く。それぞれの連れというのはローレンツとエンフィールドのことだろうか。もっとも、尋ねたところでミカエルが答えてくれるかは分からないけれど。
音楽室に入り、ミカエルはピアノの側にある椅子に私に座るよう促したので私はその通りに従う。ようやく、ミカエルの手が私の手を離した。
「一曲、弾きたくなったんだ。君はちゃんと聴いていくこと」
そう言ってからミカエルがピアノの前に着席する。流れる仕草で鍵盤に指が滑っていく。
流れてきた曲は、エリーゼのために、だった。
2022.11.19