Bookso beautiful yet terrific.

 魔法薬学の授業で使うための野草を探して植物辞典を片手に学園の裏山までやって来た。この場所はそんなに鬱蒼としていないのであたたかい日差しが木々の隙間を縫って辺りを照らしてくれる。そのおかげで、裏山だというのにわりと気温が高く感じた。
 ふと、ぽつぽつと咲く黄色の花を見つけてそちらに足を向ける。それは本来なら春に咲いているはずの山吹の花だった。おそらく、ここ最近気温が例年より高かったので春と勘違いして花が咲いてしまったのだろう。これから寒さが厳しい冬がやって来るというのに、かわいそうに思う。

「お!監督生じゃん。おまえ一人か?」

 呼ばれて振り向けば、カリム先輩が手を振ってから私の元へ駆け寄ってくるところだった。私が挨拶を返すとカリム先輩がにこやかに笑う。それからカリム先輩は先程私が眺めていた山吹の花の存在に気がつき、首を傾げた。

「これ、春に咲く花じゃなかったっけ?」

「最近あたたかいせいで咲いてしまったみたいなんです」

「あー、あれか!帰り花ってやつか」

うんうんと一人納得してからカリム先輩が山吹の前でしゃがむ。ぽつぽつと咲いている黄色の花をまじまじと見つめたかと思うと、おもむろに制服のポケットの中からスマホを取り出してはカメラのシャッターを切った。

「おまえ達が枯れちゃっても、俺が忘れないから安心していいぞ」

そう言って微笑むカリム先輩はとても優しい表情を浮かべていた。

「そういえば、どうしてカリム先輩は裏山に?」

 私が話を変えるとカリム先輩がスマホをポケットの中に戻しながら立ち上がる。

「魔法薬学の授業で使う野草が足りなくて、探しに来たんだよ。そういう監督生は?」

「私も同じです」

「そっかあ。それじゃあ、一緒に探そうぜ」

お互いが探している野草を私の持つ辞典で確認し終えてから二人揃って山吹の前を通り過ぎる。私は並んで歩くカリム先輩のおしゃべりを聞きつつも頭の中には先程の山吹の花が忘れられずに残った。
 私がツイステッドワンダーランドからいなくなったら、この山吹の花と同じようにカリム先輩は忘れないでいてくれるのかなあ。
 そう思っても、言えるわけがない。きっと、尋ねてしまえば優しいカリム先輩なら忘れないと言い切っててくれるのだろう。

「そうそう!今晩宴を開くからおまえも来いよ!俺、みんなが来てくれるのも嬉しいけど、おまえが来てくれるのは特別嬉しいんだ!」

 カリム先輩の言葉に思わず頬を染める。だけど、気がつかれないように慌てて表情を引き締めた。

「ありがとうございます。私も、カリム先輩にお誘いいただき嬉しいです」

言ってから、泣きそうになる。カリム先輩の他意の無い言葉が、とてもつらかった。
 この恋心を、いつか帰る日まで隠せる自信が、私にはない。

2022.11.19
帰り花|女監督生受け版ワンドロワンライ