
Bookso beautiful yet terrific.
休日のある日、学園長にお使いを頼まれた。麓の街にある魔法士御用達ショップの店主に、とってもやばい秘密が記された手紙を届けてほしいとのことだ。というか、とってもやばい秘密の手紙と学園長の口から私に言ってしまうのだから正直大したものではないのだろうと思う。案の定、その例の手紙を店主に届けたら私の目の前であっさりと封を切って読み出したではないか。
「学園長からはとってもやばい秘密の手紙だと念を押されていたのですが」
「確かにやばい秘密が書かれているよ。クロウリーさんがまだ駆け出しの魔法士だった頃の失敗談がね」
私の疑問に店主があははは!!!とけらけら笑っている。やっぱり、大した内容じゃないじゃん。悪態をつきたいがそれは学園長の前だけにしよう。
そんなこんなでお使いを済ませて店を出るとちょうど昼食の時間だった。いつもだったら一緒のはずの相棒のグリムは学園長からのお使いと聞いた瞬間あからさまに嫌な顔をしてハーツラビュル寮のマブ達の部屋へ一目散に逃げて行ったのでいない。おかげさまで今なら好きな物が食べられる。
「せっかく麓の街へ出かけるのだから好きな物を召し上がってきなさい。高級フレンチでも和食の懐石料理でも構いません。私、優しいので」
例の手紙と一緒にアルバイト代として学園長から渡されたマドルはそう言うだけあって結構な額があった。こんなに使う予定はないけれど、とりあえず学園長のご厚意に甘えることにした。
そんなこんなで、私はマドルを握りしめて一軒のファストフード店に駆け込んだのだった。
店内に入るとコーヒーの香りが鼻を擽る。設置された席には休日だけあって家族連れで賑わっていた。私はカウンターに行き、目的の物を注文し番号札を持って景色の良いテラス席に座った。もうすぐ11月も終わるというのにあたたかく晴れた天気のおかげで街は行き交う人々で溢れていた。それをぼんやりと眺めているとあっというまに短時間で店員さんが商品を乗せたトレーを席に届けてくれた。
照り焼きソースがたっぷりかかったパテを挟んだ柔らかいバンズに、揚げたてのフライドポテト、そしてアイスティーのストレート。デザートには今だけの限定品、苺ジャムと苺チョコレートをたっぷりと三角形のパイに詰め込んだメニューをオーダー。
それでは早速と照り焼きソースたっぷりのバーガーにかぶりつく。口の中に広がる甘塩っぱいタレに思わず頬が緩む。幸せだなあと心地良く浸っていた時だった。
「こちらの席、失礼します」
有無を言わさずさっさとテーブルの向かい側に座って来た人物に私はバーガーを食べるのをやめてそちらを見る。私服姿だったのですぐにピンと来なかったけれど、こちらをじっと見つめてくる眼鏡の奥の双方に私はようやく相手がアズール先輩だと気がついた。
え?相席?席ならまだあちこち空いてますが?というか、アズール先輩ってファストフード食べるの?と内心疑問を抱きながら口の中に残ったバーガーをアイスティーで流し込む。一方、当のアズール先輩はやって来た店員さんから注文した商品を乗せたトレーを受け取る代わりに番号札を返している。しかも、トレーに乗っている商品は照り焼きソースたっぷりのバーガーとアイスティーのストレートではないか。幻覚かと思ったが、残念ながら現実のようだ。
「なんですか。人の顔をゴーストでも見たような表情で見つめて」
私のあまりにも不躾な視線を受け止めたアズール先輩があからさまに溜息を吐いた。
「すみません。その、意外だったので」
「まあ、そう言われても仕方がありませんね」
僅かに眉を寄せたアズール先輩は、照り焼きソースたっぷりのバーガーを意外にも男らしく大きく口を開けてぱくりと噛みつく。その姿があまりにも貴重に見えて少しの間だけ凝視してしまったけど、結局は私もバーガーを食べることを再開した。
それにしても、と思いながら残りの照り焼きソースたっぷりのバーガーを食べ終える。次に揚げたてのフライドポテトに手を伸ばし、ちょうどいい塩加減に舌鼓を打つ。残すはとても楽しみにしていたストロベリーチョコパイだけ。ぽろぽろとパイが溢れそうになるのを気をつけながらパイに齧りつく。その瞬間、口いっぱいに甘酸っぱい苺ジャムと甘ったるい苺チョコレートが広がり、私の頬が思わず緩んだ。あたたかいストロベリーチョコパイのおかげで身も心もホッとする。幸せ。その一言に尽きた。
不意に、視線を感じて顔を上げるともうとっくに食べ終わったらしいアズール先輩がぼーっとこちらを見つめていた。私と目が合ったアズール先輩はハッとしたように目を丸くさせてから、視線を右往左往させてしまう。その隙に、私は残りのストロベリーチョコパイをさっさと食べてからアイスティーを飲み干した。
「なんかすみません。その、私だけ食べてて」
と言っても、勝手に相席してきたのはアズール先輩の方だけど。アズール先輩は私の言葉に反応してすぐに私に視線を戻す。時折眼鏡のフレームを直しながら躊躇うように口を開いた。
「僕の方こそ、急かしてしまい申し訳ありません。本当は、もう少しゆっくり食事していてよかったのですが」
そこまで言ってからアズール先輩の口が閉じる。もごもごとはっきりしないアズール先輩の様子につい眉を寄せてしまう。すると、アズール先輩があからさまに顔を顰めていく。おまけにはあと深々と溜息を吐いてみせた。
「さっきの表情とは全く違いますね」
アズール先輩の言っている意味が分からず口を引き結ぶ。そのせいか、さらにアズール先輩の表情が曇ってしまった。
「ああいう表情を、きっとあなたのお友達には見せているのでしょう」
「表情、ですか?」
「自覚がないのも分かってはいましたが。これはこれできついですね。まったく」
ずいとテーブルの向こうからアズール先輩が身を乗り出した。私は思わず数回瞬きする。アズール先輩はまたじっと私の目を見つめてきた。一拍置き、アズール先輩が再び溜息を吐く。元の位置に戻ったアズール先輩は頬杖をついてから眉を下げて頬を緩めた。
「あんなにとろけるようなあなたの表情を、僕は見たことがありません」
「とろける?」
「先程食事している時の表情です。学食では見たことがありません」
「ああ、そういうことですか。私、ここのファストフード好きなので」
「確かにカロリーがとても高いですし、おいしいのも納得できます」
ふうとアズール先輩が息を吐く。そんなに溜息ばかり吐かれてもねえ。と思いつつアズール先輩の顔を見る。
「ところで、このあとは何かご予定でも?」
唐突に聞かれた質問に私は瞬きする。そんな私を余所に、アズールの視線が僅かに鋭いものに変わった。
「誤魔化しても無駄ですよ。そんなに着飾って、いつもご一緒のお友達も同行せずあなた一人です。どなたかとお会いになるんでしょう?」
「着飾ってもないしただの私服ですよ。学園長からのお使いで麓の街に来ただけなので、用事も済みました。ついでに言うと、グリムはめんどくさがってハーツラビュル寮に逃げしまったんです」
「は?」
私の言葉にアズール先輩がぽかんと口を開ける。少しの沈黙の後、アズール先輩が姿勢を正した。
「てっきり、何処ぞの馬の骨とも分からない輩とデートかと」
ゆっくりとアズール先輩が頭を振る。それから、諦めたように笑ったのだった。
「付き合ってもないのに嫉妬に狂うだなんて、みっともないですね。アズール・アーシェングロットという男ってやつは」
2022.11.26
とろける|女監督生受け版ワンドロワンライ