「彼氏が出来ました」

珍しくなまえがピンポンを押して、我が家へ来訪した日、なまえの隣に立っていたのは俺たちの知らない男だった。見たこともない制服を着ているところを見ると、同じ学校ではないらしい。愛想の欠片もないツンツン頭のその男は、小さく頭を下げて「伏黒恵、です」とだけ言葉を口にした。


「ちょ、ちょっと待って。どういうこと?」
「津美紀ちゃん知ってるよね?」
「や、知らねぇよ。誰それ」
「そこからかぁ」
「っていうか、いつから付き合ってんの?」
「昨日からだよね?」
「あぁ、そうだな」
「………気に入らんな」


ただでさえ、人見知りな宿儺なのに、なまえが知らない男と居るってなったらガチギレやらかしてもおかしくはない。現にずっと、腕を組んだままだんまり決め込んでたのに、一番初めに口から出た言葉が「気に入らない」って俺の経験からしたらそこそこヤバい。いや、そこそこっつーかマジでヤバい。なまえは気づいているかと思ったけど、全く気付いていない様子で、誰かから来たらしい連絡を返すためにスマホを弄っていた。


「お前がなまえの何を知っている」
「別にそこまで知らないけど、これから知っていけばよくないですか?知っているから勝ちってわけでもないでしょう?」
「……知らねば分からんこともあるだろう?」
「そこはきちんと話して解決するんで大丈夫です」


宿儺も大概だけど、なまえの彼氏も大概おかしい人間だった。宿儺に物怖じしない人間は、大人以外では俺かなまえくらいだったのに、宿儺が売った喧嘩をことごとく買って論破しようとする。あぁ、だからこいつなんだなって、俺は納得した。


「悠仁、宿儺。そろそろ行くね」
「まだ話は終わっとらん」
「お説教はまた今度。行こう、恵くん」


なまえが彼氏の手を引いて、自宅へと駆け出した。宿儺はまだ気に入らない様子だったけど、俺はこれもありなんじゃねーかな。と思った。なまえが笑ってて、ちゃんと家に帰れて。隣にいるのは、必ずしも俺や宿儺じゃなくていい。



「おい悠仁」
「なんだよ」
「俺はなまえを奪うぞ」
「なんで俺に言うんだよ」
「なんとなく、だ」


宿儺が不機嫌なまま家の中に入った。俺はどうする?って思ったけど、答えは簡単。俺だってなまえを好きな気持ちは負けてない。なまえの幸せを壊そうなんて思えないけど、今後なまえが今の彼氏と別れた時には、俺も素直になろう。その時まで、少しだけ気持ちに蓋をさせて。
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